自己破産すると給料は受け取れますか?|自己破産前に給料の差押えを受けている場合はどうなりますか?

「自己破産をしたいけど、給料やボーナスが差押えられないか心配です。」
自己破産をすると、給料やボーナスが差押えられてしまうのではないかと不安に思われる方が多くいらっしゃいます。

結論から申し上げますと、自己破産をしても給与が差押えられることは原則としてありません。
多くの場合は自己破産前と変わらず、給与を全額受け取ることができます。

また、早期に自己破産の手続きを進めることで、債権者(お金を貸した人)からの給与の差押えを回避することができます。

さらに、すでに債権者から給与の差押えを受けていたとしても、自己破産をすれば、差押えを止めることができます。

このように、実は自己破産をすることにより、給与を確実に受け取ることができるようになります。

この記事では、①自己破産前に債権者から給与の差押えを受けている場合はどうなるのか、②自己破産によって給与がどのような取り扱いを受けるかについて、詳しく解説していきます。

自己破産をしたら給与がどうなるのかが心配だという方は是非参考にしてみてください。


<目次>
・給与の差押えとは何ですか?
・給与が差押えられるまでの流れ
・給与が差押えられるとどうなるのか?
 ・給与の一部が支給されなくなる
 ・給与が差押えられる範囲
 ・勤務先に借金のことがバレる
 ・家族に借金のことがバレる可能性がある
・自己破産で給与の差押えを止めることができる
 ・管財事件の場合、給与の差押えが失効するのはいつ?
 ・同時廃止の場合、給与の差押えが失効するのはいつ?
・早期の自己破産で給与の差押えを回避
・自己破産によって給与がどのような取り扱いを受けるのか?
 ・自己破産しても手元に残せる財産
 ・破産手続開始決定時に支給が予定されている給与
 ・破産手続開始決定後に支給される給与
・自己破産と給与の差押えのまとめ


給与の差押えとは何ですか?


債権者(お金を貸している人)が債務者(お金を借りている人)の財産から貸付金を回収する法的手段の一つとして、「差押え」があります。

差押えがされると、債務者は差押えを受けた財産を処分することができなくなります。

債権者は、差押えによって債務者が財産を処分できないようにした後、その財産を取り立てたり、競売手続きで財産を換価(売却)するなどの方法で貸付金を回収することになります。

差押えの対象となる財産は、債務者の預貯金、給与、貴金属などの動産、土地や建物などの不動産がありますが、これらの中でも差押えの対象となりやすいのは預貯金や給与です。

給与は毎月入ってくるものなので、差押えの対象となりやすいでしょう。


給与が差押えられるまでの流れ


借金の返済が滞ったからといって、いきなり差押えが行われるわけではありません。
給与の差押えをするためには、訴訟や支払督促といった手続きを経て、「債務名義」を取得する必要があります。

「債務名義」とは、差押えや強制執行をする根拠を記載した公的機関が作成する文書をいいます。

訴訟手続きでは「判決」、支払督促の申立てでは「支払督促」という文書が債務名義になります。

以下では、債権者から給与の差押えを受けるまでの流れを説明します。


① 債権者からの督促の電話や請求書の送付

借金を放置していると、まず、債権者から督促の電話があり、請求書が送付されます。

債権者からの請求書には、支払いがない場合、訴訟の提起や支払督促、給与の差押えなどをするといった文言が記載されていることが一般的です。

② 訴訟の提起、支払督促の申立て

債権者から請求を受けた後も借金を放置していると、債権者は予告通り訴訟を提起したり、支払督促の申立てをします。

このタイミングで、裁判所から「訴状」や「支払督促」といった書類一式が届くことになります。

③ 判決の言渡し・確定、仮執行宣言付支払督促の確定

債権者から訴訟を提起されたのに放置していると、債権者の主張する請求額全額を認める判決が下され、裁判所から「判決書」が届くことになります。

また、支払督促に対し、2週間以内に異議を申し立てなければ、債権者は仮執行宣言を申し立て、裁判所から「仮執行宣言付きの支払督促」が届くことになります。

債権者はこの「判決書」や「仮執行宣言付きの支払督促」を債務名義として、裁判所に給与差押えの申立てをすることになります。

④ 給与について債権差押命令申立て

債権者は、判決や仮執行宣言付支払督促に基づいて、裁判所に債務者の給与を差押える債権差押命令の申立てをします。

裁判所は、債権者の申立てにより、債務者の勤務先に対して「債権差押命令」という書面を送付します。

⑤ 給与の差押え、取立て

勤務先に債権差押命令が届くことにより、勤務先は従業員である債務者に給料を支払えなくなります。
そして、債権者は貸付金の返済に充てるため、債務者の勤務先から給料を取り立てることができます。

債権者から給与の差押えを受けるまでの流れは以上のとおりです。


給与が差押えられるとどうなるのか?


それでは、給与の差押えにより、債務者にどのような影響があるのでしょうか。


給与の一部が支給されなくなる



裁判所から勤務先に送付される債権差押命令によって、勤務先は差し押さえられた給与を債務者に支払うことができなくなります。

そして、給与の差押えは、判決などの債務名義に記載された額(借金の未払い額など)を回収するまで続けられます。

つまり、給与の差押えは、差押えをした債権者への借金を完済するまで毎月続くことになります。


給与が差押えられる範囲



もっとも、給与の差押えを受けたからといって、給与の全部が差押えられるわけではありません。
債務者の生活を保障するため、法律上、「差押禁止財産」として差押えが禁止されている部分があります。

給与の差押えの場合、所得税や住民税、社会保険料を差し引いた後の手取り額の4分の3の金額(上限33万円)は差押えが禁止されています(民事執行法152条1項1号)。

そのため、給与の差押えがされたとしても、手取り額の4分の3については、債務者が受け取ることができます。

例えば、手取り額が20万円の場合、差押えられるのは5万円が上限で、債務者は15万円の給与を受け取ることができます。

他方で、例えば給与の手取り額が52万円の場合、4分の3の金額は39万円ですが、それでは上限の33万円を超えますので、33万円を超える部分の全額(19万円)が差押えられることになります(民事執行法施行令2条1項)。


※差押禁止財産については、”e-Gov法令検索「民事執行法」152条”ご参照

勤務先に借金のことがバレる



債権者から給与差押えの申立てをされると、裁判所は、債務者の勤務先に対して、債権差押命令を送付します。

そのため、勤務先に借金を滞納したことが必ずバレることになります。


家族に借金のことがバレる可能性がある



勤務先に債権差押命令が届いた後、債務者の住所にも債権差押命令が届くことになります。

裁判所は、債権差押命令を特別送達という郵便方法で送付します。
特別送達は必ず対面での受け取りが必要なため、家族が配達員に応対したことがきっかけで借金のことがバレる可能性があります。


自己破産で給与の差押えを止めることができる


給与の差押えを受けると一部の給与を受け取れなくなったり、勤務先や家族に借金のことがバレるなどの大きな影響があります。
このように聞くと、今、借金を滞納し、債権者からの督促を受けている方は不安に思われるかもしれません。

もっとも、給与の差押えを受ける前に自己破産の手続きを進めれば、給与の差押えを回避することができます。

また、すでに債権者から給与の差押えを受けていたとしても、自己破産をすれば、差押えを止めることができます。

自己破産の手続きを進めていくと、最終的に給与の差押えは失効することになります。

なぜかというと、破産手続きでは、すべての債権者は平等に扱われ、破産者の財産から、それぞれの債権額に応じた弁済(配当)を受けることになります。

しかし、各債権者が給与などの差押えにより我先にと財産を回収できるとすれば、債権額に応じた平等な弁済(配当)ができなくなるため、法律上、差押えの効力が失効することになっています。

なお、自己破産には、破産管財人がつく「管財事件」と管財人がつかない「同時廃止」という2種類の手続きがあります。

管財事件と同時廃止では差押えが失効するタイミングが異なるため、以下では、それぞれの場合について解説します。


「管財事件」の場合、給与の差押えが失効するのはいつ?

破産手続きは、大まかにいうと、①破産の申立て→②破産手続開始決定→③破産手続廃止決定または終結決定→④免責許可決定という流れで進んでいきます。

裁判所に破産申立てを行うと、申立内容に問題がない場合、裁判所は破産手続の開始を決定します。

破産手続開始時に保有している財産が多く、一定の基準額を超える場合は、財産を調査したり、債権者に配当する必要があるため、破産管財人が選任されます。

また、浪費などの免責不許可事由が重大である場合も、破産に至った経緯・理由を調査し、破産者に反省を促し、生活の再建を指導監督するため、破産管財人が選任されます。

このような管財人がつくケースを「管財事件」といいます。

管財事件の場合、破産手続開始決定がされると同時に差押えが失効します(破産法42条2項)。

そのため、破産開始前に給与の差押えを受けていた場合でも、管財事件の場合、破産手続開始決定後は給与を全額受け取れるようになります。


「同時廃止」の場合、給与の差押えが失効するのはいつ?

破産手続開始決定時に財産がほとんどなく、裁判所が認める一定の基準額以下である場合には、破産手続開始の決定と同時に破産手続の廃止(終了の意味です)が決定されます。
このようなケースは「同時廃止」と呼ばれ、破産管財人がつくことなく、手続きが進みます。

同時廃止の場合は、破産手続の開始が決定されると、差押えが「中止」されることになります(破産法249条1項)。

差押えが一時的に凍結されるというイメージです。

そして、同時廃止の場合、免責許可決定が確定した時点で差押えの効力が失効することになります(破産法249条2項)。

そのため、同時廃止の場合、破産手続開始決定時点から免責許可決定が確定するまでの間、債権者も破産者も差押え分の給与を受け取ることができません。

差押え分の給与は、万が一、免責が許可されず、差押えが再開した場合に備えて、勤務先が「供託所」に預けるか、勤務先で保管されることになります。

その後、免責許可決定が確定したタイミングで、破産者は、満額の給与とそれまで差押えられていた給与を受け取ることができます。

なお、同時廃止の場合でも、破産手続開始決定を受けて、債権者が自主的に給与の差押えを取り下げることがあります。
その場合には、破産者は免責許可決定の確定まで待つことなく、破産手続開始決定後は給与を満額受け取れることができます。


早期の自己破産で給与の差押えを回避


給与の差押えを受けずに済むのであれば、それに越したことはありません。
早期に自己破産を進めれば、給与の差押えを回避することができます。

なぜなら、自己破産の申立ての準備が問題なく進んでいれば、金融機関などの債権者も給与差押えの準備を一旦ストップすることが通常です。

また、破産手続開始決定後は新規の差押えをすることはできません(破産法42条1項)。

そのため、すでに借金を滞納しており、債権者から督促を受けている場合には、すぐに弁護士に相談し、なるべく早急に自己破産の申立てをすることが望ましいでしょう。


※破産法の各条文については、”e-Gov法令検索「破産法」”ご参照

自己破産によって給与がどのような取り扱いを受けるのか?


債権者から給与の差押えを受けていなくても、自己破産をすると、すべての財産を失ってしまうイメージがあるため、将来の給与も失ってしまうのではないかと心配される方がいらっしゃいます。

結論から申し上げますと、自己破産をしても、自己破産前と変わらず、給与を全額受け取ることができます。

以下では、債権者から給与の差押えを受けていなくても、自己破産によって給与を取り上げられないか、自己破産による給与の取り扱いについて解説します。


自己破産をしても手元に残せる財産

自己破産とは、多額の借金を抱えた個人や法人(会社)が、自ら裁判所へ破産の申立てをし、借金や財産を清算した上で、残った借金の返済が免除される手続きのことをいいます。
つまり、自己破産とは、手持ちの財産が処分される代わりに、借金をすべて帳消しにする手続きです。

もっとも、自己破産をすることで、まったくの無一文になると生活ができなくなるため、処分されずに残しておける財産もあります。

そこで、まず、自己破産により処分の対象となる財産はどのように決まるのか、破産法のルールを簡単に説明します。

破産法上、債務者が破産手続開始決定時点で有する一切の財産は、原則として、「破産財団」となり、処分の対象となります。

ただし、債務者が破産手続開始決定時点で有する財産のうち、生活再建に必要な一定の財産については、「自由財産」として例外的に破産財団から除外されます。

自由財産については、自己破産をしても、生活再建のために手元に残すことができます

自由財産の範囲は管財事件と同時廃止で若干異なるため、以下では、管財事件を前提に自由財産の範囲を示します。

【自由財産の範囲】
① 99万円以下の金銭
② 裁判所が自由財産として拡張を認めた財産(拡張適格財産)
③ 差押え禁止財産
④ 破産手続開始決定後に新しく手に入れた財産(新得財産)

注:①現金及び②拡張適格財産の合計額が99万円以下の場合は、原則的に自由財産として認められます。


破産手続開始決定時に支給が予定されている給与

破産法のルールによれば、破産手続開始決定時点で支給が予定されている給与は処分の対象となります。

例えば、給与の支払が月末締め、翌月25日払いの場合に、翌月の10日に破産手続の開始が決定されたとします。
この場合、破産者は、破産手続開始決定時点である10日において、25日に給与を受け取る権利(給与債権といいます。)を有することになります。

そのため、破産法のルールに従えば、破産手続開始決定時点で支給が予定されている給与債権は処分の対象となる財産に含まれることになります。

もっとも、前述したとおり、給与債権には差押禁止部分があります(手取り額の4分の3の金額(上限33万円))。

この給与の差押禁止部分は自由財産となりますので(上記の自由財産の範囲③)、自己破産をしても処分の対象にはならず、破産者は差押禁止部分の給与を全額受け取ることができます。

また、給与債権の4分の3を超える部分についても、上記の自由財産の範囲の②拡張適格財産(99万円の範囲内)に含まれるものとして、自由財産として認められることがほとんどです。

そのため、破産手続開始決定時に支給が予定されている給与についても、99万円を超えるなどの余程高額な給与でない限り、その全額を受け取ることができます。


破産手続開始決定後に支給される給与

破産手続開始決定後に得た財産に関しては、新得財産として自由財産となりますので(上記の自由財産の範囲④)、破産手続きで処分の対象になることはありません。

そのため、破産手続開始決定後に働いた分の給与については、本人が全額受け取ることができ、自由に使うことができます。

よって、将来の給与は問題なく全額受け取れますので、自己破産により給与を失うことを心配する必要はありません。


自己破産と給与の差押えのまとめ


借金の滞納を続けると、債権者から給与の差押えを受ける可能性があります。

給与が差押えられると、給与の一部が支払われなくなったり、勤務先や家族に借金のことがバレる可能性があるなど、大きな影響があります。

しかし、早期に自己破産をすれば、高い確率で給与の差押えを回避することができます。

また、すでに差押えを受けている場合であっても、自己破産をすることで最終的に差押えを止めることができます。

自己破産をすれば、給与が取り上げられるのではないかと心配されている方がいらっしゃいますが、多くの場合、自己破産をしても、従来とおり給与を受け取ることができます。

このように、実は、自己破産は給与を確実に受け取るために有効な手段ということができます。

そのため、すでに給与の差押えを受けている方や債権者からの督促に困っている方は、借金問題を放置せず、早めに自己破産に強い弁護士に相談することをおすすめします。

(記事公開日 2024.7.16)

この記事の監修者
弁護士 黒田 良平

弁護士 黒田 良平(大阪弁護士会所属)
大阪・北浜の平野町綜合法律事務所所属
債務整理、自己破産、個人再生、過払い金請求などの借金問題の解決に日々取り組んでいる。
親切かつ丁寧にご相談に耳を傾ける姿勢が好評を得ている。借金問題のご相談は無料ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

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