自己破産すると生命保険はどうなる?|保険解約返戻金がある場合の取り扱いや自己破産後に生命保険に入れるかについて徹底解説
自己破産をした場合、自分の入っている生命保険がどうなるのか、気になる方もいらっしゃると思います。
結論としては、自己破産をした場合の生命保険の取り扱いは、解約返戻金の有無や金額によって異なります。
保険解約返戻金の金額によって、自己破産の手続きの種類が変わったり(後で述べるように同時廃止と管財事件があります)、場合によっては、生命保険を解約する必要がある場合もあり得ます。
もっとも、自己破産をしたからといって、自分の入っている生命保険を解約しなければならない場合はむしろ少なく、多くの場合は生命保険の契約を維持できるでしょう。
この記事では、自己破産すると生命保険の解約返戻金はどうなるのか、生命保険を解約したくない場合の対処法などについて詳しく解説していきます。
・生命保険の解約返戻金とは?
・解約返戻金は保険契約者の財産になる
・生命保険以外の解約返戻金
・自己破産での保険解約返戻金の取り扱い
・自己破産手続きの種類(同時廃止と管財事件)
・生命保険を残せる場合と解約が必要となる場合
・解約返戻金の財産評価と契約者貸付
・生命保険を解約したくない場合の対処法
・解約返戻金を20万円未満に抑える(同時廃止の場合)
・自由財産の拡張(管財事件の場合)
・99万円超過分の解約返戻金相当額を管財人に支払う
・自己破産の前に生命保険を解約するとどうなる?
・自己破産で生命保険を隠してもバレる?
・自己破産後に生命保険に入れるか?
・自己破産以外の債務整理により生命保険を残す方法
・自己破産と生命保険のまとめ
生命保険の解約返戻金とは?
生命保険は、保険期間中に死亡または高度障害状態になった際に保険金が支払われる契約になっており、「掛け捨て」の保険と「積立型」の保険があります。
解約返戻金とは、保険を途中で解約した際に、積み立ててきた保険料や契約期間に応じて保険会社が契約者に返すお金のことをいいます。つまり、保険解約返戻金は保険契約者の財産ということになります。
そのため、自己破産をした場合の生命保険の取り扱いは、解約返戻金の有無や金額によって異なります。
「掛け捨て」の保険の場合には、解約返戻金は全くないか、あっても少額であるため、自己破産の際にも書類に記載したりするだけで影響はありません。
他方で、「積立型」の保険の場合、保険料や契約期間によっては、高額な財産となる場合があります。
解約返戻金の有無や金額については、保険証券の記載により解約返戻金の有無を確認したり、保険会社に解約返戻金(見込額)証明書を発行してもらい、確認することになります。
解約返戻金は保険契約者の財産になる
生命保険契約には、保険契約者の他、被保険者や保険金の受取人が定められますが、月々の保険料を支払うのは保険契約者であり、契約を解約し、保険会社に対して解約返戻金を請求することができるのは保険契約者です。
そのため、解約返戻金は保険契約者の財産であり、保険契約者が自己破産する場合に、解約返戻金の取り扱いが問題となります。
もっとも、あくまで例外的ではありますが、名義上の保険契約者以外の第三者が月々の保険料を支払っていて、実質的な契約者は実際に保険料を支払っている第三者であると判断される場合もあります。
例えば、親族が自己破産する本人の知らないところで、本人名義の生命保険を契約していた場合などが問題となります。
このような場合に、実際に保険料を支払っている親族が生命保険の実質上の契約者であるとすれば、その保険の解約返戻金は親族の財産となり、自己破産する本人の財産とは扱われないことになります。
即ち、生命保険の解約返戻金は原則として名義上の契約者の財産となりますが、例外的に実際に保険料を支払っていた第三者の財産と判断される場合もあります。
そして、そのような例外に当たるかは、生命保険契約の締結の経緯や保険料の支払いに関する具体的な事情を踏まえて判断されますので、詳しくは弁護士に相談されるといいでしょう。
生命保険以外の解約返戻金
自己破産の手続きでは、生命保険以外の保険の解約返戻金も、保険契約者の財産という取り扱いになります。
解約返戻金がある保険としては、次のような保険があります。
解約返戻金のある保険の例 |
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・生命保険 ・養老保険 ・個人年金保険 ・学資保険 ・自動車保険 ・火災保険 ・地震保険 ・損害賠償保険 …etc. |
また、後に述べるように、自己破産の手続きでは、同時廃止の場合であれば保険解約返戻金の金額が20万円未満、管財事件の場合は預貯金等の他の財産と合わせて99万円以内である場合は、生命保険を自由財産として残すことができます。
この基準となる金額は、1つの保険契約の解約返戻金ではなく、すべての保険契約の解約返戻金の合計額で判断されます。
そのため、例えば生命保険や火災保険の解約返戻金の合計が20万円以上である場合は、そのままでは同時廃止では処理できず、管財事件として取り扱われることになります。
自己破産での保険解約返戻金の取り扱い
自己破産をした場合の生命保険の取り扱いは、解約返戻金の有無や金額によって異なります。
保険解約返戻金の金額によって、自己破産の手続きの種類が変わったり(同時廃止と管財事件があります)、場合によっては、生命保険を解約する必要がある場合もあり得ます。
自己破産手続きの種類(同時廃止と管財事件)
自己破産の手続きには、同時廃止と管財事件があります。
同時廃止とは?
自己破産をする人に財産がほとんどない場合(生活に必要最低限の財産しかない場合)、債権者に財産を分配することはできません。
そのため、裁判所は破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をします(廃止とは終了という意味です)。これを「同時廃止」と呼びます。
同時廃止は基本的に書面審査で手続きが完了する簡便な手続きであり、費用も比較的安く済みます。
よって、できる限り同時廃止で自己破産の申立てをすることが、破産者にとっても負担が少ないと言えるでしょう。
管財事件とは?
破産する人にある程度の財産があり、同時廃止で手続きを進めることができない場合(財産の金額が同時廃止の基準を超える場合)は、破産管財人が選任される管財事件として自己破産の申立てをします。
管財事件の場合は、破産管財人が選任され、債権者集会が開かれるなど、同時廃止と比べてやや複雑な手続きとなります。
また、破産手続きの費用も、破産管財人の予納金が必要とされるなど、管財事件では同時廃止よりも高額になります。
生命保険を残せる場合と解約が必要となる場合
自己破産とは、手持ちの財産を失う代わりに、借金をすべて帳消しにする手続きです。
ただし、自己破産をすることで、全ての財産を手放し、全く無一文になると生活ができなくなります。
そのため、自己破産をしても、破産者の生活再建のため、最大99万円の財産を所持したまま自己破産することが認められています。
そして、保険解約返戻金も一定の金額の範囲内では、自由財産の一つとして、保険を解約せず契約を維持することができます。
大阪地裁の取り扱いでは、保険解約返戻金が20万円未満であれば、保険を解約せずに残すことができ、同時廃止の手続きで自己破産をすることができます。
保険解約返戻金が20万円以上の場合は管財事件となりますが、管財事件の場合は、保険解約返戻金が預貯金等の他の財産と合わせて99万円以内である場合は、自由財産の拡張が認められますので、保険を解約せず、契約を残すことができます。
他方で、保険解約返戻金が自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合は、破産管財人によって保険が解約され、破産財団に組み入れられる可能性があります。
以上をまとめると次のとおりとなります。
自己破産すると、生命保険はどうなるか?(大阪地裁の場合) |
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▋保険解約返戻金が20万円未満の場合 同時廃止の手続きで自己破産が可能であり、生命保険も解約せずに残せる。 |
▋保険解約返戻金が20万円以上であるが、自由財産(最大99万円)の範囲内の場合 同時廃止ではなく管財事件となるが、保険解約返戻金は自由財産の拡張により処分されず、生命保険を残すことができる。 |
▋保険解約返戻金が自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合 破産管財人によって保険が解約され、破産財団に組み入れられる。 |
ただし、後述のとおり保険解約返戻金は契約者貸付を差し引いた金額で評価されることになります。
また、保険解約返戻金が自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合であっても、生命保険を解約したくない場合には、いくつかの対処法があります。
解約返戻金の財産評価と契約者貸付
生命保険の財産的価値は、解約返戻金の金額で決まります。
もっとも、契約者貸付により解約返戻金が減っていますので、本来の解約返戻金から契約者貸付を差し引いた金額が財産として評価されます。
契約者貸付とは、生命保険契約に基づき、解約返戻金額の一定の範囲内で保険会社から貸付けを受けられる制度をいいます。
例えば、本来は生命保険の解約返戻金が60万円あったとしても、契約者貸付により45万円を借りていれば、解約返戻金の財産評価は残りの15万円となります。
このような場合には、保険解約返戻金の評価額が20万円未満となりますので、破産管財人がつかずに同時廃止の手続きで自己破産をすることができます。
生命保険を解約したくない場合の対処法
生命保険は必ず加入できるわけではなく、たとえば高齢の方や加入後に病気になった方などは、自己破産後に、再度生命保険に加入したくてもできない場合もあるかもしれません。
また、今まで入っていた生命保険の内容が有利なため、契約を残したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
どうしても生命保険を解約したくない場合には、次のような対処法があります。
解約返戻金を20万円未満に抑える(同時廃止の場合)
前述したように、保険解約返戻金が20万円未満であれば、保険を解約せずに残すことができ、同時廃止の手続きで自己破産をすることができます。
また、この20万円未満という基準は、1つの保険契約の解約返戻金ではなく、すべての保険契約の解約返戻金の合計額で判断されます。
そのため、複数の生命保険の解約返戻金を合わせると20万円以上になる場合は、大事な生命保険は残し、その他の生命保険を解約してしまい、解約返戻金を20万円未満に抑えることが考えられます。
なお、解約した生命保険の解約返戻金は「現金」の扱いになりますが、「現金及び普通預貯金」については、その合計額が50万円までは保持したまま、同時廃止で破産申立てができます(大阪地裁の場合)。
また、生命保険の契約内容によっては、「契約者貸付制度」を利用することで、解約返戻金を20万円未満にすることはできます。
例えば、生命保険の契約者貸付により、一部の解約返戻金を引き出して、その金銭を弁護士費用に充てつつ、契約者貸付を差し引いた解約返戻金が20万円未満となる場合には、生命保険は残したまま同時廃止手続きで破産申立てをすることもできるでしょう。
自由財産の拡張(管財事件の場合)
前述したように、管財事件の場合は、保険解約返戻金が預貯金等の他の財産と合わせて99万円以内である場合は、自由財産の拡張が認められますので、保険を解約せず、契約を残すことができます。
即ち、仮に他の財産がないと仮定すると、管財事件では、保険解約返戻金は最大99万円まで自由財産と認められます。
そのため、管財事件の場合には、多くの場合、保険を解約せずに残したまま自己破産の手続きを進めることができるでしょう。
99万円超過分の解約返戻金相当額を管財人に支払う
保険解約返戻金が(預貯金等の他の財産と合わせて)自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合は、破産管財人によって保険が解約され、破産財団に組み入れられる可能性があります。
もっとも、仮に99万円を超える場合であっても、99万円超過分の金額を現金で破産財団に組み入れた場合(現金で管財人に支払った場合)、生命保険は自由財産として保持したまま、自己破産をすることが可能です。
例えば、保険解約返戻金が120万円あり、他の財産がないと仮定した場合、120万円から99万円を控除した21万円を現金で破産管財人に支払うと、自由財産の拡張が認められ、生命保険は残しておくことができます。
この現金21万円は、例えば親族からの援助などにより準備することになります。
また、例えば、保険解約返戻金が80万円、預貯金が40万円ある場合は、全体の財産が120万円となりますから、120万円から99万円を控除した21万円を預貯金から破産管財人に支払うことで、生命保険は自由財産として残しておくことができます。
自己破産の前に生命保険を解約するとどうなる?
これまで生命保険を残す方向で解説をしましたが、反対に、生命保険はあきらめて、自己破産の前に生命保険を解約した場合はどうなるのでしょうか?
前述したように、解約した生命保険の解約返戻金は「現金」の扱いになり、「現金及び普通預貯金」については、その合計額が50万円までは保持したまま、同時廃止で破産申立てができます(大阪地裁の場合)。
同時廃止の基準では、保険解約返戻金のままでは20万円未満である必要がありましたが、「現金及び普通預貯金」は50万円まで認められます。
また、例えば、解約した保険解約返戻金が60万円であったとしても、そのうちの30万円を破産申立て費用に支出し、残金(現金及び普通預貯金)が30万円であるとすれば、同時廃止での破産申立てが認められます。
現金化した保険解約返戻金が50万円を超えて残ってしまう場合は、管財事件となりますが、その場合は99万円までは自由財産として現預金を保持することができます。
自己破産で生命保険を隠してもバレる?
生命保険契約を故意に申告せず、「財産隠し」をすることは、自己破産では禁止されています。
例えば、
・自己破産の手続きで多額の解約返戻金がある生命保険契約があるのに、意図的に申告せず、裁判所や破産管財人を欺く行為
・自己破産直前に保険契約の名義を親族などの第三者に変更し、解約返戻金を隠す行為
・自己破産前に生命保険を解約し、受け取った解約返戻金を隠す行為
などは財産隠しに当たります。
解約返戻金のある生命保険を隠す行為は、詐欺破産罪という犯罪になりますし(破産法第265条)、財産隠しは免責不許可事由にも当たります(破産法第252条1項1号)。
せっかく自己破産をしたのに、借金の免責が認められないとすると、元も子もありません。
生命保険の有無や内容は、源泉徴収票や所得証明書などの生命保険料の控除の記載から判明します。また銀行口座の入出金明細の保険料の支払いでもわかりますし、保険会社からの郵便物などでもバレる可能性があります。
このように生命保険は隠してもバレますので、自己破産をするときには、正直に申告するようにしましょう。
※詐欺破産罪(破産法第265条)や免責不許可事由(破産法252条)の条文はこちら→破産法 | e-Gov法令検索
自己破産後に生命保険に入れるか?
自己破産すると、生命保険に加入できなくなるとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。
持病等が原因で保険会社の審査に通らない可能性はありますが、自己破産したことが原因で、生命保険に加入できないことはありません。
生命保険の加入の際に告知義務があるのは、現在の健康状態や職業、さらに過去の病歴や身体の障害の有無などです。生命保険に加入する際に自己破産をした経験があることを自ら申告する必要はありません。
よって、自己破産後はもちろん、自己破産手続き中であっても新たに生命保険に加入することは可能です。
自己破産以外の債務整理により生命保険を残す方法
どうしても生命保険を残したいという方は、自己破産以外の債務整理の方法も検討するといいでしょう。
債務整理には、「自己破産」の他、「任意整理」「個人再生」という方法があり、最も生命保険を残しやすい方法が「任意整理」です。
任意整理による解決
任意整理とは、サラ金やクレジット会社と任意に交渉して、債務の返済総額や返済条件・期間を見直して和解をする制度を言います。
任意整理では、利息制限法の利息で引き直し計算をして、減額された元本の分割返済を約し、かつ、その元本の分割返済に当たっては将来の利息が付かないように和解することになります。
(※:金融機関によっては利息や遅延損害金をカットできないこともあります)
例えば、利息の引き直し計算の結果、借入元本が50万円残る場合、その50万円を毎月1万円ずつ50回にわたって返済することを合意し、その50回の分割返済中には利息が付かないように和解することになります。
任意整理の場合は、財産を処分されることはないので、解約返戻金の金額を問わず、生命保険が処分されることはありません。
よって、任意整理による場合は減額された借金の分割返済は続きますが、返済能力と返済する意思がある場合は、任意整理を検討するとよいでしょう。
個人再生による解決
個人再生とは、住宅ローンを除く借金を5分の1〜10分の1に減額し(ただし、100万円未満には減額できず、かつ、破産となった場合の予想配当総額を下回ることはできない)、減額された借金を原則3年で分割返済する制度を言います。
個人再生は自己破産と違い、基本的に財産が処分されるようなことはありません。そのため、生命保険が解約されることはなく、契約を残すことができます。
ただし、保険解約返戻金の金額が高ければ、再生債権の返済総額が上がってしまう可能性があります。
これは個人再生の「清算価値保障原則」があるためです。
「清算価値」とは、その人が保有している財産のことであり、「清算価値保障原則」とは、個人再生した場合に少なくとも清算価値以上の金額を弁済しなければならないという原則です。
この原則により、保険解約返戻金が財産の総額を押し上げることにより、再生債権の返済総額が上がってしまうということがあり得ます。
自己破産と生命保険のまとめ
これまで述べたとおり、自己破産をした場合の生命保険の取り扱いは、解約返戻金の有無や金額によって異なります。
もっとも、自己破産をしたからといって、自分の入っている生命保険を解約しなければならない場合はむしろ少なく、多くの場合は生命保険の契約を維持できるでしょう。
生命保険の解約返戻金の金額が高く、そのままでは自己破産が難しい場合も、契約者貸付を利用して、解約返戻金の金額を引き下げたり、99万円超過分の解約返戻金相当額を管財人に支払うなどの対処法により、生命保険を解約することなく維持することができます。
また、自己破産したことが原因で、生命保険に加入できないことはなく、自己破産後はもちろん、自己破産手続き中であっても新たに生命保険に加入することは可能です。
そのため、自己破産により生命保険がなくなるのでは?と心配されている方は、自己破産に強い弁護士に相談されることをお勧めします。
(記事公開日 2025.1.3)