会社が破産したら、株主にはどのような影響がありますか?|株主への事前通知の要否についても解説
会社の経営が行き詰って、借入金や買掛金の返済の目途が立たず、債務超過の状態になった場合、“会社の破産”を考える経営者の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、株式会社が破産をした場合、株主は投下資本を回収できなくなるという不利益を被り、株主にとって大きな影響があります。
株主は会社の実質的な所有者ですので、「会社の破産前には株主に知らせなければならないのではないか?」と思い、会社破産をためらう方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、この記事では、会社が破産する場合に株主に事前に通知する必要があるか、会社破産は株主にはどのような影響を与えるかについて、詳しく解説していきます。
会社が破産する場合、株主総会決議や株主への事前通知は不要
取締役会設置会社では、会社破産の申立ては、会社の業務執行に関する事項として、取締役会の決議事項とされています(会社法362条2項1号)。
その反面、取締役会設置会社では、定款で別段の定めがない限り、株主総会が会社破産の申立てを決議することはできません(会社法295条2項)。
会社破産の申立てが株主総会決議事項ではない以上、事前に株主に対して会社破産の申立てを通知することも必要ありません。
取締役会を設置していない会社(取締役会非設置会社)では、会社破産の申立てを株主総会で決議することもできます。
もっとも、取締役会非設置会社においても、取締役全員の同意があれば会社破産の申立てをすることができます。そのため、会社破産の申立てについて取締役全員の同意があれば、株主総会決議は必要ではなく、株主に対して事前に通知する必要もありません。
よって、会社破産の申立てをする場合には、株主総会決議は不要であり、株主に対する事前の通知も不要です。
その理由は会社破産の緊急性や株式市場の混乱を防ぐことにあります。
1)会社破産の緊急性
会社破産を申し立てる状況では、会社の経営状態は悪化しており、その状況を放置していると、会社財産が流出してしまうので、会社の破産が開始しても、債権者に対する配当が十分になされないことにもなります。
そのため、会社の破産は緊急性を要し、会社が速やかに破産の申立てを決定できるようにしておくことが必要です。
そこで、会社破産の申立てでは、株主への事前通知や株主総会決議を不要として、速やかに破産の申立てができるようにしています。
2)株式市場の混乱を防ぐ
上場会社で破産の申立てを決定したことが株式市場で公に伝わると、その会社の株式は一斉に市場で売却され、一挙に無価値になってしまいます。
上場会社の破産の決定はその会社への投資判断に重大な影響を及ぼします。
そもそも、会社が破産を予定しているなどの未公表の重要事実を基に株式を売買することは、金融商品取引法によって禁止される「インサイダー取引」に該当します。
そこで、インサイダー取引や株式市場の混乱を防止するためにも、会社破産前に株主総会決議は不要であり、株主に対する事前の通知も不要であるとされています。
会社が破産する場合、取締役会の決議は必要
これまで説明したとおり、会社が破産する場合、株主総会決議は不要ですが、会社が破産するという重大な決断をする以上、取締役会の決議、又は取締役全員の同意が必要となります。
1)取締役が1名の場合
取締役が1名の場合、その方が代表取締役となりますので、代表取締役が会社の破産を決定すれば、破産手続を進めることが可能です。
2)取締役会設置会社の場合
株式会社では、取締役が複数いる場合でも、取締役会を設置している会社と設置していない会社があります。
取締役会設置会社の場合は、会社破産を申し立てるには取締役会決議が必要です。
なお、取締役会は3人以上の取締役で構成されています。
取締役会では全会一致で破産を承認し、議事録を作成します。
この議事録には、取締役全員の署名と押印が必要になっており、破産申立てに当たって、議事録を裁判所に提出しなければなりません。
3)取締役は複数いるが、取締役会を設置していない場合
取締役会非設置会社の場合には、取締役会ではなく、取締役全員の同意を取り付け、同意書を作成することが必要です。
【取締役全員の同意が得られない場合】
上述のとおり、会社の破産には全会一致による取締役会の決議、又は取締役全員の同意が必要になります。
しかしながら、会社では取締役として登記がされているものの、実質的には経営に全く関与していないというケースがあります。また、一部の取締役が会社の破産に反対していることもあるでしょう。
このような場合、会社破産について取締役会を開催できなかったり、取締役全員の同意を取り付けることができないということがあり得ます。
取締役会決議ができなかったり、取締役全員の同意が得られないため、破産が全くできないということになると、債権者にとっても大きな影響が出ますし、破産すべきである会社をそのまま存続させておくことにもなります。
そこで破産法は、個々の取締役に破産申立ての申立権を認めています(破産法19条1項)。
このように個々の取締役が破産法で認められた申立権に基づいて、会社の破産を申し立てることを準自己破産と言います。
すなわち、会社破産について取締役全員の同意が得られない場合であっても、破産手続開始の原因となる事実(支払不能もしくは債務超過の状態)を疎明することで、個々の取締役が会社の破産を申し立てることができます。
疎明というのは証明よりもレベルの低いもので、諸々の資料で支払不能や債務超過の事実が一応確からしいことを示すことができれば足ります。
破産法19条1項(※一部省略しています)
次の各号に掲げる法人については、それぞれ当該各号に定める者は、破産手続開始の申立てをすることができる。
一 一般社団法人又は一般財団法人 理事
二 株式会社又は相互会社 取締役
三 合名会社、合資会社又は合同会社 業務を執行する社員
会社破産が株主に与える影響
株式会社が破産をすると、株主には次のような影響が生じます。
株主には出資した株式が無価値になるという影響が生じますが、それ以上に、会社の債務を株主が肩代わりするようなことはありませんのでご安心ください。
1)出資した株式が無価値になること
株主は株式を取得する際に、会社に対して出資するか、または株式売買によって株式を取得しています。
株式を取得する人は、株式を持ち続ける場合は配当を期待し、売却する場合は購入時より株価が値上がりしていることを期待して、株式を取得しているでしょう。
しかし、株式会社が破産をした場合、株式の価値はゼロになってしまいます。
会社が破産をした場合、破産手続きが終わると、法人は消滅してしまいます。
会社が破産した時は、「債務超過」の状態であることがほとんどです。
債務超過とは、破産会社の財産を清算しても、債務の方が多いので、残余財産が無くマイナスの状態であることを意味します。
株主が会社から残余財産の分配を受けられるのは、債権者に対する債務を完済した後になりますが、債務超過の場合は株主に対する残余財産の分配は期待できません。
したがって、株式会社が破産をした場合、株主は残余財産の分配を受けられず、株式が無価値(紙くず)になるという不利益を被ります。
2)会社破産によって、株主は会社の債務を負担することはない
破産によって株式会社が支払えなくなった債務を、株主が負担することはあるのでしょうか?
株式会社における間接有限責任の特性上、株主が会社の債務を直接負担することはありませんのでご安心ください。
間接有限責任とは、会社の破産等によっても、株主は出資した株式の限度で責任を負う(株式が無価値になる)に留まり、会社債権者に対して直接責任を負うことはないことを意味します。
よって、会社が支払えなくなった債務を株主が肩代わりすることはありません。
ただし、中小企業でよく見られるように、会社の一人株主が代表取締役になっているような場合は、会社の債務を代表取締役が連帯保証していることが多いでしょう。
そのような場合には、会社破産によって支払えなくなった会社の債務を、一人株主(代表取締役)が支払う必要があるため、注意が必要です。
よって、会社の債務を会社代表者が連帯保証している場合は、会社代表者の破産も検討することになるでしょう。
会社破産と株主への影響のまとめ
いかがでしたしょうか?
会社が破産することになっても、株主総会決議は不要であり、株主に事前に通知する必要もありません。
よって、例えば株主が反対していても、法的には会社の破産を申し立てることは可能です。
また、会社が破産することによって、株主が会社の債務を肩代わりすることはありませんので、株主への影響は限定的とも言えます。
もっとも、会社の破産によって、株主は株式が無価値(紙切れ)になるという不利益を被ります。
特に中小企業の場合などは、出資してくれた株主に迷惑をかけることになり、破産後の人間関係にも影響することがあるでしょう。
そのため、身近な人に株主になってもらったような場合には、会社破産の事前もしくは事後のタイミングで破産に至った事情を十分に説明し、理解を得ることが望ましいでしょう。
会社の破産についてご不明な点がございましたら、会社破産に強い弁護士までご相談ください。
(記事更新日 2024.2.28)