自己破産すると家族に影響がありますか?家族に迷惑はかかりませんか?
「自己破産をしたら家族はどうなるのか?」
「自己破産をしたら家族に迷惑をかけるのではないか?」
自己破産をしたいけど、家族に迷惑がかかることを心配し、自己破産に踏み切れない方もいらっしゃると思います。
自己破産は、自己破産を申し立てる本人の生活には大きな影響を及ぼしますが、家族に直接的な影響を及ぼすことは基本的にはありません。
例えば、「自己破産した方の借金について、家族が請求を受ける。」、「本人が自己破産したから、配偶者や子供までクレジットカードを持てなくなる。」、「家族名義の財産まで処分されてしまう。」などということはありません。
特に、別居している家族(実家のご両親など)との関係では、自己破産が家族に影響することはほとんどないといってよいでしょう。
もっとも、自己破産が家族や周囲の方に全く影響がないとは言い切れません。本人が自己破産することによって、家族に派生的・間接的な影響が生じることがあります。
特に、同居している家族との関係では、自己破産は家族の生活にも少なからず影響を及ぼします。
そのため、自己破産によって、家族にどのような影響が及ぶのか、家族に迷惑を掛けないかを理解した上で、自己破産を決断することが望ましいでしょう。
そこで、この記事では、自己破産によって家族に及ぼす影響について詳しく解説していきます。
・自己破産しても、家族に影響が及ばないこと
・家族名義の財産は原則として処分されない
・破産者の自由財産は処分されない
・家族が借金を肩代わりすることはない
・家族の仕事や就職・転職に影響はない
・家族の結婚に直接的な影響はない
・ブラックリストに家族の名前が載ることはない
・自己破産すると、家族に影響が及ぶこと
・家族が保証人になっている場合、返済義務を負う
・持ち家を失うことにより、引越しが必要となる
・自動車を処分される可能性がある
・学資保険が処分の対象となる場合がある
・子供の奨学金などの保証人になれない
・家族カードが使えなくなる
・家族への影響を少なくする債務整理の方法
・任意整理による解決
・個人再生による解決
・自己破産と家族に対する影響のまとめ
自己破産しても、家族に影響が及ばないこと
「自己破産をすると、家族にたいへんな迷惑を掛けてしまう…」
そのように思い込んでいる方もいらっしゃると思います。
自己破産によって影響を受けるのは破産者ご本人です。原則として、ご家族の方に直接の影響は生じません。
「家族に迷惑を掛けてしまう…」ということの多くは誤解です。
そこで、まずは、自己破産しても家族に影響が及ばないことについて説明していきます。
家族名義の財産は原則として処分されない
破産手続きにおいては、破産者本人の財産は、債権者への配当のため、破産管財人によって処分される場合があります(ただし、自由財産の範囲では破産者本人の財産も処分されることはありません)。
破産手続きにおいて、破産管財人によって換価処分され、債権者への配当にあてられる破産者の財産を「破産財団」と言います。
しかし、「破産財団」は原則として破産者名義の財産に限られており、家族名義の財産は含まれません。
したがって、原則として、自己破産をすることにより家族名義の財産が処分されることはありません。
ただし、形式的には家族名義の財産であっても、実質的には破産者の財産であると評価される場合には、換価処分の対象となる可能性があります。
例えば、子ども名義の預金であっても、実質的に親である破産者が管理している場合には、破産者の財産であると評価される場合があります。
また、破産申立て直前の時期に、財産の名義を家族や第三者の名義に変更することもしてはいけません。
財産の名義を家族名義に変更することは財産隠し(財産の隠匿)と評価される場合があり、免責不許可事由となる可能性があるからです。
免責不許可と判断されると借金が免除されなくなり、破産したことが無駄になってしまいますので、注意が必要です。
破産者の自由財産は処分されない
前述したように、破産手続きにおいては、破産者本人の財産は、破産財団として破産管財人に引き渡すことになりますが、自由財産の範囲では破産者本人の財産も処分されることはありません。
自己破産後も破産者が保有できる自由財産としては、まず、民事執行法上の差押禁止財産があります。
そして、次のような生活必需品は民事執行法上の差押禁止財産となります。
・破産者及び生計を一にする同居の親族の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳、建具
・破産者及び生計を一にする同居の親族の1か月間の生活に必要な食料、燃料
よって、生活必需品である家具や家電などの財産は、自己破産をしても引き続き使用することができます。
また、現金、預金など含めた合計99万円以下の財産は原則的に自由財産として認められます。
自己破産後に新しく手に入れた財産(例えば、破産開始決定後に得た給料など)についても自由財産となります。
このように破産者の財産についても、すべての財産が処分されるわけではなく、自己破産後の生活に必要な財産は手元に残すことができます。
よって、破産者が無一文となり、家族の生活の途が閉ざされるということはありません。
家族が借金を肩代わりすることはない
自己破産する本人の代わりに、家族が借金を肩代わりすることはありません。
自己破産しても、家族が保証人や連帯保証人でない限り、家族が代わりに借金の返済義務を負うことはありません。
尚、貸金業法では、貸金業者が債務者以外の者に対し、債務者に代わって借金を返済するよう要求することを禁止しており、これに違反した場合には刑事罰が科せられます(貸金業法21条1項7号、47条の3第1項2号)。
そのため、家族が貸金業者から借金を肩代わりするように要求される心配はありません。
※参考:貸金業法|e-Gov法令検索
家族の仕事や就職・転職に影響はない
自己破産の手続き中、破産者本人は一定の職業(弁護士、司法書士、税理士等の士業や警備員、生命保険募集人など)に就くことが制限されます。
他方で、自己破産が破産者の家族の仕事に影響することはなく、家族は当然に仕事をそのまま続けることができますし、家族の就職、転職が制限されるようなこともありません。
そのため、自己破産をすることによって、家族が仕事を辞める必要が生じたり、就職や転職ができなくなるということはありませんので、ご安心ください。
家族の結婚に直接的な影響はない
自己破産をすることによって、家族の結婚に直接的な影響が及ぶことはありません。
自己破産をしたことが住民票や戸籍に記録されることはないので、住民票や戸籍の記載から自己破産をしたことが家族の結婚相手に知られることはありません。
自己破産をしたことは官報に掲載されますが、掲載される情報は破産者本人の情報のみであり、破産者の家族の情報が記載されることはありません。
一般の方が官報を閲覧することはほとんどありませんので、官報の記載から自己破産したことを周囲に知られる可能性は限りなく低いといえるでしょう。
そのため、自己破産をしても、破産者の家族の結婚に影響することは基本的にはありません。
ブラックリストに家族の名前が載ることはない
自己破産すると、CICやJICCといった信用情報機関に事故情報として登録されます(いわゆる「ブラックリスト」です)。
もっとも、信用情報機関に事故情報が登録されるのは自己破産をした本人の情報に限られ、その家族の信用情報は何も記録されませんので、悪影響はありません。
そのため、自己破産をしても、破産者の家族は、クレジットカードの利用を継続できますし、新たにクレジットカードやローンの契約をすることができます。
自己破産すると、家族に影響が及ぶこと
本人が自己破産することによって、家族に派生的・間接的な影響が生じることがあります。
特に、同居している家族との関係では、自己破産は家族の生活にも少なからず影響を及ぼします。
以下では、自己破産することによって、家族にどのような影響を及ぼすかについて説明していきます。
家族が保証人になっている場合、返済義務を負う
家族が借金の保証人(連帯保証人)や連帯債務者となっている場合、主債務者が自己破産をすると、債権者は保証人や連帯債務者に対し、主債務者の代わりに借金を返済するように請求してきます。
自己破産をする本人は、免責許可決定によって借金を免れることになりますが、免責の効果は保証人や連帯債務者には及ばないため、家族の返済義務は免除されません。
保証人である家族が返済できない生活状況である場合は、その家族も自己破産等の債務整理を検討する必要があります。
このように、家族が借金の保証人となっている場合、自己破産することによる家族への影響が大きいので、慎重な判断が必要です。
持ち家を失うことにより、引越しが必要となる
持ち家などの不動産は、自己破産をしても保有できる自由財産とは認められません。
そのため、破産者名義の持ち家などの不動産がある場合は、住宅ローン債権者である金融機関によって持ち家の競売申立てがなされるか、破産管財人が売却することになります。
破産者と同居の家族は持ち家に住めなくなりますので、賃貸住宅などへの引っ越しや、場合によっては転職や転校をすることになり、生活面で様々な影響を受けることになります。
自動車を処分される可能性がある
自己破産をしたら自動車を処分される場合があります。車のローンが残っている場合と残っていない場合で取り扱いが変わってきます。
車のローンが残っている場合車のローンが残っている場合は、車両ローンが完済されるまで、ローン会社が車両の所有者となっていることが多いでしょう。これを所有権留保といい、普通自動車の車検証の所有者欄にもローン会社名やディ―ラーの会社名が記載されています(注:軽自動車は扱いが異なります)
自己破産をする場合で、車のローンが残っており所有権留保があるときは、車はローン会社に引き揚げられますので、車を手元に残すことはできません。
自己破産しても車を手元に残せる場合
ローン会社の所有権留保がない場合に、車を手元に残せるかどうかは、車の資産価値によって判断されることになります。
車の評価額はレッドブックや査定資料により判断します。もっとも、大阪地方裁判所の運用では、①日本製の普通自動車であれば、初年度登録から7年を超え、新車時の車両本体価格が300万円未満の場合と、②軽自動車であれば、初年度登録から5年を超える場合は、それぞれ無価値(資産価値はない)と判断されます。
よって、①②に当たる場合は、自己破産をしても自動車を手元に残すことができます。
①②に当たらない場合でも、車の査定資料などによって、車の評価額が低い場合は自由財産として手元に残すことができます。
反対に、自動車の評価額が高額であり、自由財産として認められない場合には、自己破産によって自動車を手放すことになります。
自動車がなくなる場合には、移動手段がなくなり、家族の生活も不便になりますので、対策をよく話し合っておく必要があるでしょう。
学資保険が処分の対象となる場合がある
破産者が子どものための学資保険をかけている場合は、その解約返戻金が多額であれば解約しなければいけない可能性があります。
具体的には、学資保険の解約返戻金が、他の財産と合わせて自由財産(最大99万円)の範囲に収まらない場合、学資保険を解約する必要が生じてきます。
学資保険を解約することになれば、子どもの将来の進学にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
ただし、保険解約返戻金と他の財産の合計が自由財産(最大99万円)を超える場合であっても、自由財産の超過額を現金で破産管財人に引き渡すなどの対応を取れば、学資保険の解約を免れることができます。
子どもの奨学金などの保証人になれない
子どもが奨学金を申請する場合、保護者が保証人となる場合が多いですが、自己破産をした親は保証人となることができません。
そのため、自己破産をしていないもう一方の親や祖父母などの家族が保証人となる必要があります。
奨学金を借りる際の保証制度には、人的保証の他に、機関保証がありますので、子どもが奨学金を借り入れる際には、機関保証を利用することも検討すべきでしょう。
機関保証とは、日本国際教育支援協会などの公益財団法人が連帯保証をする制度のことです。
機関保証を選択した場合は、親や親族などの保証人・連帯保証人は不要となります。
家族カードが使えなくなる
家族カードとは、クレジットカードの契約名義人の家族が利用できるカードのことです。
自己破産の申立てをした場合、破産者名義で契約しているクレジットカードはもちろん、破産者の家族のために作った家族カードも利用できなくなります。
家族カードはクレジットカードの契約者の信用を基に発行されるカードだからです。
家族のキャッシュレス決済や公共料金の支払いを家族カードで行っている場合は、全て現金払いとなってしまうので、家族の行動が制約されてしまうことになるでしょう。
尚、家族がクレジットカードの契約者であり、破産者が家族カードを利用している場合、家族カードの利用が制限されることはありません。
家族への影響を少なくする債務整理の方法
自己破産では家族に迷惑をかけてしまう場合には、自己破産以外の債務整理の方法を検討することになります。
自己破産以外の方法としては、任意整理と個人再生があります。
任意整理による解決
家族が自分の借金の保証人になっていて迷惑をかけたくないのであれば、「任意整理」による解決が望ましいでしょう。
任意整理とは、サラ金やクレジット会社と任意に交渉して、債務の返済総額や返済条件・期間を見直し和解をする制度を言います。
任意整理では、利息制限法の利息で引き直し計算をして、減額された元本の分割返済を約し、かつ、その元本の分割返済に当たっては将来の利息が付かないように和解することになります。
例えば、利息の引き直し計算の結果、借入元本が50万円残る場合、その50万円を毎月1万円ずつ50回にわたって返済することを合意し、その50回の分割返済中には利息が付かないことになります。
任意整理では、債務の返済総額や返済条件・期間を見直して、毎月の返済の負担は軽くすることができます。
同時に、任意整理によって保証人への請求を回避することができますので、保証人に迷惑をかけない債務整理の方法として有効です。
個人再生による解決
家族に迷惑をかけるので、持ち家を手放したくない方は「個人再生」による解決が望ましいでしょう。
個人再生とは、住宅ローンを除く借金を原則5分の1に圧縮し(ただし、100万円未満には圧縮できず、かつ、破産となった場合の予想配当総額を下回ることはできない)、圧縮された借金を原則3年で分割返済する制度を言います。
個人再生は住宅を所有したまま、住宅ローン以外の借金の圧縮を図るのに適した制度と言えます。
個人再生では、住宅ローンの返済について住宅資金特別条項を定めることができます。
住宅ローンについては、原則として当初の住宅ローン契約の返済計画で返済することになりますが、再生計画の中で、住宅ローンの返済条件や返済期間を変更することも可能です。
個人再生によれば、家族に迷惑をかけないように、持ち家に住み続けたまま、住宅ローン以外の借金を大幅に減額することができます。
自己破産と家族に対する影響のまとめ
自己破産はあくまで個人の手続きですが、場合によっては、持ち家を手放したり、保証人である家族が債権者から督促を受けるなど、家族にも大きな影響を及ぼす場合があります。
もっとも、弁護士に相談して事前に対策を立てることで、家族への影響を最小限に抑えることができます。
また、家族に迷惑をかけないようにするため、自己破産以外の、任意整理や個人再生といった方法を選択する場合もあります。
自己破産や債務整理に詳しい弁護士であれば、ご相談者の家庭の状況に合わせた最適な債務整理の方法を提案できます。
そのため、家族への影響を心配して自己破産を躊躇されている方は、お早めに自己破産や債務整理に強い弁護士に相談することをお勧めします。
(記事公開日 2023.11.4)