自己破産をすると預金口座は凍結されますか?口座が凍結される場合や対処法について
「自己破産をすると預金口座が凍結されるって本当ですか?」
「預金口座が凍結されると口座に預けていたお金はどうなりますか?」
預金口座は、給与や年金の受け取り、公共料金の引き落としなどに広く利用されていますので、使えなくなるとたいへん不便です。
そのため「預金口座が凍結されるかも?」と聞いて、自己破産することを躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、自己破産の手続きを進めると、借入れのある銀行(信用金庫なども含みます)の預金口座が一定期間凍結され、預金の引き出しなどができなくなります。
しかし、凍結の対象となる預金口座、口座凍結による影響、口座が凍結されるタイミングなどについて正しい理解があれば、事前に対策することによって口座凍結のデメリットを最小限に抑えることが可能です。
そのため、預金口座が凍結されることを過度に心配する必要はありません。
この記事では、自己破産による凍結の対象となる預金口座、凍結される期間、預金口座凍結への対処法について詳しく解説していきます。
・自己破産をすると借入れのある銀行口座は凍結される
・凍結されるのは借入れのある銀行口座のみ
・銀行が預金口座を凍結する理由
・預金口座が凍結されるタイミング
・預金口座が凍結される期間
・預金口座が凍結されるとどうなる?
・出金・送金・引き落としができなくなる
・給与や年金の入金が制限される場合がある
・預金と借金が相殺される
・受任通知が届いた後の入金は相殺の対象にならない
・預金口座が強制解約される可能性がある
・預金口座の凍結に備えた対処法
・口座凍結前に預金を引き出す
・給与や年金の振込先口座を変更する
・公共料金の引落口座や支払方法を変更する
・自己破産と預金口座の凍結のまとめ
自己破産をすると借入れのある銀行口座は凍結される
自己破産をすると、借入先の銀行の預金口座が一定期間凍結されることになります。
預金口座の凍結とは、銀行が、預金口座からの出金・送金・引き落とし、口座への入金を制限することを言います。
そのため、預金口座が凍結されると、凍結期間中はATMからの出金や公共料金の引き落としができなくなります。
もっとも、保有している全ての預金口座が凍結されるわけではありません。凍結されるのは借入れのある銀行の預金口座に限られます。
また、通常1か月から3か月程度で口座の凍結は解除されるため、凍結された口座がずっと使えなくなるわけではありません。
凍結されるのは借入れのある銀行口座のみ
凍結されるのは、借入れのある銀行の預金口座に限られます。
もっとも、同じ銀行であれば、その銀行の全ての支店の預金口座が凍結の対象となることに注意が必要です。
例えば、A銀行α支店に借入れがあり、A銀行β支店には借入れがない場合であっても、両支店の口座が凍結されることになります。
他方で、借入れのない銀行の預金口座は、たとえその口座がクレジットカードの引落口座になっていても、凍結の対象となることはありません。
つまり、B銀行の口座がC社のクレジットカードの引落口座になっていても、B銀行から借入れがなければ、B銀行の預金口座が凍結されることはありません。
また、銀行の系列会社である消費者金融から借入れをしていても、その銀行から借入れがなければ、やはり銀行口座が凍結されることはありません。
銀行の系列会社の消費者金融としては、例えば、三菱UFJ銀行とアコム、三井住友銀行とプロミスなどがあります。
銀行からの借入れの有無と口座凍結の関係 |
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▋A銀行α支店で借入れ A銀行の全ての銀行口座が凍結され、β支店の預金口座も凍結される。 |
▋B銀行から借入れなし たとえ、B銀行の口座をC社のクレジットカードの引落口座としていても、B銀行の口座は凍結されない。 |
▋D銀行から借入れなし たとえ、D銀行の系列の消費者金融(E社)から借入れがあっても、D銀行の口座は凍結されない。 |
銀行が預金口座を凍結する理由
銀行が預金口座を凍結するのは、銀行から借入れのある債務者の預金口座の残高から貸付金を回収するためです(注:債務者の借入金は銀行にとっては貸付金になります)。
すなわち、銀行は、債務者が借金の返済ができない状態であることがわかると、口座を凍結させて預金を引き出せないようにし、預金と貸付金を相殺します。
それでもなお貸付金が残る場合、銀行は保証会社から代位弁済を受け、貸付金を全額回収することになります。
銀行が相殺や代位弁済により貸付金を回収する間、預金が自由に引き出せる状態になっていると、預金から回収できなくなる可能性があります。
そのため、銀行は相殺、代位弁済の手続きが終わるまでの間、債務者の預金口座を凍結して、預金が引き出せない状態にするのです。
預金口座が凍結されるタイミング
自己破産を弁護士に依頼すると、借金の督促を止めるため、弁護士から債権者である銀行に対し、受任通知が送付されることになります。
受任通知とは、弁護士が依頼者から自己破産などの債務整理の依頼を受けたことを各債権者に通知する書面です。
銀行は受任通知が送付されたタイミングで、債務者が借金の返済ができない状態になったことを知り、相殺や代位弁済の手続きをするために預金口座を凍結します。
預金口座が凍結される期間
預金口座が凍結されても、永久に使えなくなるわけではありません。口座が凍結される期間は一般的には1か月から3か月程度です。
銀行は、貸付金を回収するため、相殺や代位弁済が終わるまでの間は預金口座を凍結します。
他方で、多くの銀行は相殺や代位弁済による貸付金の回収が終われば、口座の凍結を解除します。
この相殺や代位弁済にかかる期間が1か月から3か月程度であり、この期間は預金口座が凍結されることになります。
預金口座が凍結されるとどうなる?
自己破産をして預金口座が凍結されると、次のような影響があります。
・出金・送金・引き落としができなくなる
・給与や年金の入金が制限される場合がある
・預金と借金が相殺される
・受任通知が届いた後の入金は相殺の対象にならない
・預金口座が強制解約される可能性がある
以下では、それぞれを詳しく解説していきます。
出金・送金・引き落としができなくなる
預金口座の凍結期間中は、口座からの出金・送金・引き落としができなくなります。
そのため、ATMで預金の引き出しや公共料金の支払いを口座引落の方法ですることができなくなります。
もっとも、銀行への受任通知の送付によって預金口座が凍結されますので、受任通知の発送前には、預金を引き出して残高を0円にしたり、公共料金の支払方法を変更するなどの対策を取ることが可能です。
給与や年金の入金が制限される場合がある
預金口座が凍結されると、基本的には出金・送金・引き落としが制限されることになります。
しかし、銀行によっては、預金口座への入金も制限されることがあります。
口座への入金が制限されると、給与や年金も預金口座に入金されなくなってしまいます。
そのため、給与や年金の振込先口座が凍結対象口座である場合には、凍結前に振込先口座を変更しておくことが望ましいでしょう。
預金と借金が相殺される
銀行は、自己破産の受任通知によって債務者が借金の返済ができない状態であることがわかると、口座を凍結させて預金を引き出せないようにし、預金残高と貸付金を相殺してしまいます。
そのため、凍結される可能性のある口座の残高は、受任通知を発送する前に全額引き出しておく必要があります。
受任通知が届いた後の入金は相殺の対象にならない
前述のとおり、債務者が自己破産することを銀行側が知ると、すぐに預金口座を凍結した上で、預金残高と相殺することになります。
ただ、借入金と相殺されるのは、受任通知が届いた時点までの預金残高のみです。受任通知が届いた後に入金された部分については相殺の対象となりません。
なぜなら、この部分については、相殺の対象にできない(相殺が禁止される)旨が法律上で規定されているからです(※破産法71条1項3号)。
よって、口座凍結後に給与が振り込まれたような場合は、銀行は振り込まれた給与と貸付金を相殺することはできません。
※相殺の禁止(破産法71条1項3号)の条文については、”e-Gov法令検索「破産法」のページ”をご覧ください。
預金口座が強制解約される可能性がある
銀行が保証会社から代位弁済を受けると、預金口座の凍結は解除されるのが一般的です。
しかし、銀行によっては預金口座の凍結後、そのまま預金口座が強制解約になるケースもあります。銀行によっては、自己破産が預金契約の解約事由となる場合もあるからです。
このような場合は、他の銀行で新しく預金口座を開設することになります。銀行口座を開設することは「お金を借りる」行為ではないため、自己破産をしても新規口座を開設することは可能です。
そのため、新規口座が必要であれば、借金をしていない別の銀行で口座を開設することで対処することができます。
預金口座の凍結に備えた対処法
自己破産をするに当たって、日常生活に必要な口座が凍結の対象となっている場合、事前に対策をすることが必要です。
前述したように、金融機関は受任通知が届いた時点で預金口座を凍結することが一般的です。
そのため、受任通知の送付の前に、弁護士のアドバイスに従って、以下の対策をすることが望ましいでしょう。
1. 口座凍結前に預金を引き出す
2. 給与や年金の振込先口座を変更する
3. 公共料金の引落口座や支払方法を変更する
1. 口座凍結前に預金を引き出す
銀行は、自己破産の受任通知によって口座を凍結させて預金を引き出せないようにし、預金残高と貸付金を相殺してしまいます。
そのため、凍結される可能性のある口座の残高は、受任通知を発送する前(口座が凍結される前)に全額引き出しておく必要があります。
ただし、引き出した預金の管理やお金の使途は明確に説明できるようにしておく必要があります。
引き出した預金が所在不明になったり、使途が不明であると、裁判所や管財人に「財産の隠匿」や「浪費」を疑われることにもなるからです。
「財産の隠匿」や「浪費」は免責不許可事由に該当し、免責不許可と判断されると借金が免除されなくなり、破産したことが無駄になってしまいます。
そのため、もし預金を引き出すことに不安があれば、信頼できる弁護士からのアドバイスを受けて対処することをお勧めします。
2. 給与や年金の振込先口座を変更する
預金口座の凍結前に給与や年金が振り込まれた場合、口座凍結により出金できなくなり、相殺の対象になってしまいます。
他方で、前述のとおり受任通知の送付後(預金口座の凍結後)に入金された給与や年金は相殺の対象にはなりませんが、給与や年金を引き出すには銀行窓口で手続きをする必要があり手間がかかります。
また、凍結された口座への入金が制限される場合には、給与の振込ができないことから、会社に自己破産をしたことがバレる可能性もあります。
そのため、給与や年金の振込先口座が凍結対象口座になっている場合には、凍結前に振込先口座を変更しておく必要があります。
※参考:Q 年金の受け取り先を別の銀行に変更したいとき|日本年金機構
3. 公共料金の引落口座や支払方法を変更する
預金口座が凍結され、公共料金の引き落としができなくなると、滞納扱いになったり、電気・ガス・水道が止まってしまうことにもなります。
そのため、公共料金の引落口座を凍結対象口座以外に変更するか、支払方法をコンビニ払いなどに変更することが望ましいでしょう。
自己破産と預金口座の凍結のまとめ
自己破産によって凍結される預金口座は、借入れのある銀行の口座に限られ、凍結の期間も1か月から3か月程度です。
銀行口座を凍結されると何かと不便がありますが、口座凍結前に預金を引き出して残高を0円にしたり、給与や年金の振込先口座や公共料金の引落口座を変更するなどの対策をすれば、生活に大きな支障が生じることを防ぐことができます。
そのため、預金の凍結を過度に心配する必要はありません。
もっとも、どのタイミングで預金が凍結されるのか、預金の引き出しや振込先口座の変更はいつ行うのかなど、わからないこともたくさんあると思います。
そのため、自己破産する場合の預金の対処法については、自己破産に詳しい弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
(記事公開日 2024.1.2)