会社が破産したら、経営者や会社代表者の生活はどうなりますか?

会社(法人)の業績が悪化して、借入金や買掛金といった債務の返済の目途が立たず、債務超過の状態になった場合、その対処法の1つとして“会社の破産”が考えられます。

しかし、経営者や会社代表者の方は、会社が破産すると、自分の生活への不安や家族にも影響があるのではないかといった心配があるかと思います。

そこで今回は、会社の破産について説明したうえで、経営者や会社代表者の方にどういった影響があるのかについて紹介していきたいと思います。



会社(法人)の破産とは?


会社の破産は、借入金や買掛金といった債務の返済の目途が立たず、債務超過(資産よりも債務が上回っている状態のことです。)の状態になった場合に行います。

会社は裁判所に破産申立てをし、裁判所によって選任された破産管財人が会社の財産を処分して換価し、債権者に平等に配当を行うことによって会社を清算することになります。

支払不能や債務超過である会社は、ただ単に事業をやめただけでは債務が残ったままになってしまうので、会社を清算することができません。

このような会社は、破産によって清算すること(会社を消滅させること)ができます。


会社の破産を検討した方がいいケース


会社の経営状態が悪化している会社の経営者には、できる限り事業を続け、資金繰りが破綻するぎりぎりまで問題を先延ばしにされる方もいらっしゃいますが、それでは遅いこともあります。

次のような状況の会社は、破産も視野に入れ、弁護士に会社の清算について相談されることをおすすめします。

・ 税金、社会保険料を延滞している
・ すでに買掛金や賃料の支払いが遅れている
・ 従業員への給料の支払いが遅れている
・ 今後も赤字状態が継続しそうである
・ 債務超過が続いている
・ 半年以内にかなり支払いが厳しくなりそうである

このような場合に問題を先送りにして対応が遅れると、いざ会社の破産をしようとするときに、準備がスムーズに進まないこともあり得ます。

資金繰りが行き詰まり、借入金や買掛金の返済の目途が立たない場合には、速やかに会社破産に強い弁護士に相談することが望ましいでしょう。


会社の破産のメリットとデメリット


会社が破産することによるメリットとデメリットは、次のとおりです。


【会社破産のメリット】

1)資金繰りの悩みから解放される



最大のメリットは、やはり資金繰りの悩みから解放されることにあります。

経営者の方は、会社が債務を抱えて倒産の危機に陥っている場合、日々、資金繰りに頭を抱えていることも多いでしょう。

会社が破産した後は会社自体が消滅し、資金繰りに悩む必要がなくなり、精神的な負担から解放されるという大きなメリットがあります。


2)債権者の督促から解放される



会社の破産申立ては手続きが専門的なものであるため、弁護士に依頼することがほとんどです。

弁護士に破産を依頼すると、弁護士は代理人として債権者に対し受任通知を発送し、それ以降の督促などについては弁護士が連絡窓口となります。

銀行や消費者金融といった貸金業者は、弁護士の受任通知発送後は貸金業法21条1項9号により、貸金業者から取り立てをすることは禁止され、依頼者(債務者)が貸金業者と直接に話をすることはありません。

このように弁護士に会社の破産を依頼すると、債権者からの直接の督促から解放されるので、精神的な負担を減らすことができます。


3)会社代表者個人も免責される



会社の債務については、会社代表者が連帯保証人になっていることが多いので、会社が破産する場合、金融機関等の債権者は会社代表者に対して返済を求めることが通常です。

また、会社代表者は個人でもカードローンなどで借入れをして会社に運転資金を入れていることも多いでしょう。

そのため、会社代表者は、会社の債務に悩むとともに、会社代表者自身の債務についても対応が必要になります。

会社の破産をする場合には、会社代表者についても併せて破産申立てをすることが通常です。破産をすることで会社は消滅し会社代表者は最終的に免責決定が出ることで返済義務が免除されるため、会社代表者としては経済的なやり直しが期待できます。


4)公平な手続が期待できる



1~3は債務者である会社や会社代表者にとってのメリットですが、会社の破産は、債権者にとってもメリットがあります。

破綻した法人を放置した場合、残り少なくなった財産をめぐって、債権者同士で争いになることがあります。

そして、実際は、一部の債権者(特に親族・従業員・関連取引先)を優遇し、その一部の債権者にだけ先に債務の弁済をするようなことも起きてしまいます。

また、債権者側で争いが発生すれば、強引に回収しようとする債権者も出てくるでしょう。

しかし、会社の破産は、裁判所を通じて行われるものであり、裁判所から選任された破産管財人が様々な調査を行いながら破産手続きを実行していくことになるので、公平で透明性のある手続きが期待できます。

また、破産手続きで配当を行う場合は、債権の金額に応じて配当額が決められ、一部の債権者が強引に債権回収を図ることはできないので、債権者間の平等が保たれることになります(注1)。

注1:抵当権者などの担保権者は担保に取った物件から優先的に回収することができます。


【会社破産のデメリット】

1)会社の事業が継続できない



会社が破産する場合、破産手続きが終了すると同時に会社は消滅し、存続することができません。

もし、同じような商売をしようとするならば、最初から会社を立ち上げる必要があります。


2)破産の費用がかかる



会社の破産は手続きが専門的であり、弁護士に依頼することがほとんどであるため、弁護士費用が必要になります。

また、裁判所への予納金(破産管財人の報酬)が最低でも20万5000円(注:大阪地方裁判所の場合)は必要になってきます。


3)場合によっては会社代表者も破産する必要がある



先に述べたように、会社代表者は会社の借入金などの連帯保証人となっていることが多いので、会社が破産する際には、会社代表者も同時に破産せざるを得ません。

そうでないと、会社に代わって、連帯保証人である会社代表者が債権者から高額な支払いを求められることになるためです。

もっとも、会社代表者は免責決定によって経済的なやり直しが期待できますので、会社代表者が破産することは大きなメリットでもあります。


会社(法人)の破産手続きの流れ


破産手続きには“同時廃止”と“管財事件”がありますが、会社の場合は必ず管財事件となります。

管財事件では、裁判所に破産申立てを行うと、破産手続きが開始すると同時に、裁判所から破産管財人が選任されます。そして、破産する会社にある程度の財産が残る場合は、破産管財人が会社の財産を換価処分して、債権者への配当手続きを行うことになります。

尚、同時廃止は基本的に書類だけの手続きで終わることが多いですが、管財事件の場合は、破産管財人が選任され、債権者集会が開かれるなどやや複雑な手続きとなります。

また、費用面でも、弁護士費用の他に、破産管財人の報酬に充てるための管財予納金(最低20万5000円)を準備する必要があります。

それでは、会社の破産手続きの流れについて、簡単に説明いたします。


① 弁護士への相談・依頼

会社代表者が会社の債務について弁護士に相談し、破産を依頼します。
初回の相談の際には、弁護士が会社の財産や債務の状況を把握するため、会社の決算書や債務に関する資料をご持参頂いています。

② 受任通知の発送

弁護士が破産の依頼を受けると、債権者に対し、受任通知を発送します。
そのため、受任通知発送後は、弁護士が会社の代理人として、債権者とのやり取りをします。
そして、各債権者から債権に関する資料(債権調査票)を集めることになります。

③ 破産申立書類の作成・提出

破産申立てに必要な資料を集めて頂き、それらの資料をもとに弁護士が破産申立書の一式書類を作成します。
そして、弁護士が裁判所に破産申立書を提出し、破産申立てを行います。

④ 破産手続開始決定、破産管財人の選任

弁護士から提出された破産申立書をもとに、裁判所は破産手続開始の要件を満たしているかを確認して、破産手続開始決定を行います。
また、裁判所は、破産手続開始決定と同時に、申立代理人(あなたが依頼した弁護士)以外の弁護士から「破産管財人」を選任します。

⑤ 破産管財人との面談

申立人(会社代表者)と申立代理人は、一緒に破産管財人の事務所を訪問し、今後の進行について打ち合わせをします(「管財人面談」と呼ばれています)。

⑥ 破産管財人が業務を遂行

破産管財人は、会社の財産の調査、換価を行います。
尚、会社代表者は、破産管財人の業務が遂行されるために協力する義務があります。

⑦ 債権者集会

裁判所において、定められた期日に債権者集会が開かれます。
債権者集会には、破産管財人、会社代表者、申立代理人が参加し、破産管財人が行った調査についての結果が報告され、その結果に応じて、裁判所が必要な決定を行います。

⑧-1 配当手続きがない場合-異時廃止

破産管財人の財産調査を完了し、破産会社に配当できる財産がない場合は、破産手続きは終了となります。配当がなく会社の破産手続きが終了することを異時廃止と言います。


⑧-2 配当財産がある場合-債権調査・配当

破産会社に配当できる財産がある場合は、破産管財人が債権者に対して債権の調査を行います。その調査結果に基づいて、債権者の債権額に応じた配当手続きが行われます。

⑨ 任務終了報告集会・終結決定

 配当手続きが終わると、任務終了報告集会が開かれ、破産手続きの終結決定がなされます。


以上が会社の破産手続きの流れとなります。
ここまでの説明で、会社が破産した場合の会社代表者への影響についても触れていますが、ここからはさらに詳しく説明していきたいと思います。


会社の破産が会社代表者に与える影響


会社を破産すると、会社代表者は次のような影響を受けます。


会社と会社代表者の同時破産になることが多い



会社の破産をする場合には、会社代表者個人も連帯保証人になっていたり、運転資金のための借入れをしているため、会社代表者も同時に破産申立をすることが多いです。

会社代表者が個人の破産手続きで免責決定を受けることができれば、連帯保証債務やその他の借入金の返済義務を免れることができます。

尚、会社代表者が会社と同時に破産申立てをする場合は、代表者個人の破産も管財手続きになり会社と代表者双方について同じ破産管財人が就くことが通常です。


会社代表者個人の財産はどうなるのか



会社の破産によって、会社代表者も同時に破産申立てをした場合、会社代表者個人の財産も破産管財人によって管理処分されることになります。

もっとも、会社代表者個人については、破産したからといって無一文になるわけではなく、後述する自由財産の範囲で財産を保有したまま、破産することができます。

会社代表者の破産で影響が大きいのは、自宅を所有しているケースです。

会社代表者が破産をした場合自宅は破産管財人によって売却されるか、競売によって処分されることになりますので、自宅を手放すことになるのが通常です。

会社代表者が自宅を守るため、破産ではなく個人再生などの方法を検討することもありますが、会社を廃業した後の個人再生を申立てすることは難しく、会社と同時に破産して自宅を断念せざるを得ないことが多いでしょう。


【破産しても手元に残せる自由財産】

管財事件で自己破産しても、手元に残せる財産のことを「自由財産」といいます。

会社代表者が破産しても、自由財産は手元に残すことができます(注:会社の財産については自由財産は認められません)。

自由財産には、「本来的自由財産」と「自由財産拡張制度」により拡張される財産があります。

本来的自由財産には、次のようなものがあります。

● 99万円以下の金銭
● 金銭以外で差押が禁止された財産
● 自己破産後に新しく手に入れた財産

本来的自由財産以外にも、事情を考慮し、その枠を拡張することができる自由財産拡張制度というものがあります。

自由財産の拡張は、①拡張適格財産について、②現金及び拡張適格財産の合計額が99万円以下の場合は、原則的に自由財産として認められます。

現金とともに99万円の範囲内で自由財産の拡張が認められる拡張適格財産には、以下のようなものがあります。

● 預貯金・積立金
● 保険解約返戻金
● 自動車
● 敷金・保証金返還請求権
● 退職金債権
● 電話加入権
● 過払い金返還請求権

以上のとおり、自由財産の拡張が認められますので、管財事件では、概ね現金、預金、その他の財産を合わせて99万円の範囲内で自由財産が認められると考えてもらっていいです。

そのため、会社代表者が会社と同時に破産しても、無一文になるわけではなく、一定の範囲で財産を残すことができます。


会社代表者の破産手続き中の生活への影響



会社代表者は、破産手続き中の生活で次のような制約を受けます。


【職業上の制約】

破産手続き中であっても、会社代表者が新しい職場に就職して仕事することには何の制約もありません。

ただし、自己破産をすると、免責確定まで特定の職業に就くことができなくなることがあります。
就くことが出来ない職業で問題となるものには、以下のようなものがあります。

・ 警備員
・ 弁護士・税理士・司法書士などの士業
・ 宅地建物取引士の登録
・ 証券会社の外交員の登録
・ 保険外交員の登録

しかし、こうした資格制限があるのは自己破産の手続期間中だけです。
免責許可の決定が確定したときは当然に復権し、資格制限はなくなります。


【その他の制約】
1)郵便物の転送

管財手続きの場合、破産開始決定が出てから破産手続きが終了するまでの間、破産者宛の郵便物は破産管財人に転送されます。
破産管財人は郵便物の中身を確認できる権利を持ち、内容に問題がないことがわかれば破産者へ返還されます。破産手続きが終了すれば、これまでどおり郵送物が届くようになります。

尚、同居人宛の郵便物は、転送されません。


2)転居・旅行などの制約

破産手続き中に転居(引越)や宿泊を伴う旅行あるいは出張をする際は、裁判所の許可を得る必要があります。
これらの制限も破産手続きが完了した時点で終了します


3)破産管財人への説明義務

会社代表者は、会社あるいは代表者個人の破産に関して破産管財人から説明を求められた場合、それに回答する義務があります。


自己破産したことが周囲に知られないか



会社と会社代表者の破産は、当然のことながら、会社の取引先等の債権者には知られることになりますが、親戚や友人、自宅の近所の人に知られることはそうそうありません。

会社代表者の破産手続開始決定が出たことは、官報に掲載されますが、官報を読む人は滅多にいないので、官報から自己破産を知られるリスクもほとんどないでしょう。

もちろん、破産したことが戸籍や住民票に載ることも一切ありません。


家族が巻き込まれることはないか



自己破産をしたら家族への影響がないか心配な方もいらっしゃると思います。

しかし、ご家族が連帯保証人になっているなどの事情がない限り、基本的には、自己破産することで家族の資産や生活に影響が出ることはありません。

そのため、会社や会社代表者が破産したことによって、会社代表者のご家族が債権者から請求を受けたり、法的な責任を負うことはありません。

もし、債権者が関係のないご家族にまで返済を求めるようなことが起きた場合は、それに応じる必要はありませんので、すぐに破産申立てを依頼している弁護士に相談しましょう。


会社代表者の信用情報に事故情報が記録される



会社代表者が自己破産すると、信用情報に自己破産したという情報(金融事故情報)が記録されます。

信用情報機関とは、金融機関やクレジット会社、消費者金融等が加入している個人の信用情報を登録・管理している機関のことです(CIC・JICC・全銀協という機関があります)。

その信用情報機関に約5~10年間は破産したことが登録され、その間は、ローンの審査が通らず、金融機関から借入をすることができなくなります。


会社と会社代表者の破産のまとめ


いかがでしたでしょうか?

会社が破産することによって、会社代表者も破産することになるケースが多いですが、破産したからと言って、就職できなくなったり、すべての財産を失うようなことはありません。

また、家族が会社の連帯保証人になっているような場合を除いて、家族に何か影響があるといったこともないです。

会社代表者も会社と同時に破産することで、最終的に免責決定を受けて返済義務が免除されるため、経済的なやり直しが期待できます。

そのため、会社の資金繰りに頭を抱えていらっしゃるようであれば、一度、会社の破産に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

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