会社が破産したら、従業員(社員)にはどのような手続きが必要ですか?

会社が破産する場合、経営者としては、従業員にはどのような影響があるのかについて気になることも多いでしょう。

会社の破産によって従業員は失業することになりますので、従業員の人生に大きな影響を及ぼすことは否定できません。

会社としては、従業員が法律上の保護を受けて、スムーズに再就職や再出発ができるように対応することが必要です。

もっとも、会社としても、破産する場合の事務処理を経験したことがないでしょうし、会社破産という緊急時には従業員からも様々な要求があり、従業員関係を円滑に処理することも簡単ではありません。

そのため、会社の破産に際しては、破産の手続きや従業員対応などについて経験豊富な弁護士に依頼することが望ましいでしょう。

この記事では、会社が破産する場合に従業員にどのような影響を及ぼすか、会社が従業員に対して行うべき手続きについて詳しく解説していきます。



破産を従業員に説明するタイミング


経営者が会社の破産を決意した場合、どこかの段階で従業員全員に破産申立をすることを説明する必要があります。

規模の小さな会社では、従業員に対しても、前々からオープンに破産の方針を伝えておくこともあります。

他方で、規模の大きな会社では、事前に破産の方針が広まれば、大きな混乱を招くことも考えられます。
そのため、従業員には、事業停止のタイミング(Xデー)に従業員説明会を実施し、一斉に破産申立をする旨を伝えることがあります。

そして、従業員説明会では、少しでも従業員の不安を和らげるために、

(1) 会社が破産の申立てを決断した経緯
(2) 今後の出勤の要否や解雇の通知
(3) 給料、退職金、解雇予告手当の見通し
(4)  給料の未払いが発生する場合には、未払賃金立替払制度の手続き
(5) 雇用保険や社会保険の手続き

などについて、説明をすることになります。

従業員説明会では、従業員の不安をできる限り解消し、混乱を防ぐために、誠実な説明が求められるでしょう。


会社が破産する場合、従業員は解雇となる


会社が破産すると日常的な営業や業務は行われなくなり、破産管財人による業務(会社財産の管理・換価)に必要な範囲で法人格が存続することになります。そして、破産手続きが終結した時には、会社の法人格は完全に消滅することになります。

したがって、どの時点で従業員を解雇するかはケースバイケースですが、会社の破産によりいずれ会社は消滅しますので、破産申立てをする前に従業員全員を解雇しておくことが多いでしょう。正社員、パート、アルバイト、嘱託職員などを問わず、全ての従業員が解雇の対象となります。


【解雇の手続き・解雇予告手当について】

解雇とは、使用者である会社が、従業員との雇用契約を一方的に解約することです。解雇は、従業員に対して解雇を通知することによって行われます。

解雇の通知は口頭でも有効ですが、通常は解雇通知書を作成して、従業員に交付することになります。

従業員を解雇するにあたっては、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。30日前までに予告をしないで解雇する場合は、解雇予告手当の支払義務が会社に発生します。

解雇予告手当の金額は、法律上、平均賃金の30日分以上である必要があります(労働基準法20条)。

会社に給料や解雇予告手当を支払う資金が足りない場合は、破産申立時に裁判所に提出する債権者一覧表に「労働債権」として、給料や解雇予告手当を記載します。

この解雇予告手当は、破産手続において優先的破産債権となり、一般の破産債権よりも優先した位置付けになります。

しかし、解雇予告手当は未払給料とは異なり、労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度の対象にはなりません(詳しくは後述の「未払賃金立替払制度とは」参照)。


会社が破産する場合、従業員の退職に伴う諸手続が必要


会社を破産すると、従業員が解雇により退職することになりますので、次のような手続きが必要となります。


雇用保険(失業保険)の手続き



従業員は解雇によって収入を失うことになりますから、従業員が雇用保険(失業保険)を受け取れるように手続きを行うことが必要となります。

会社破産の場合の失業保険の手続は、事業が行われている間に従業員が退職した際の手続と同じです。

会社(事業主)は、退職日から10日以内に、退職した従業員分の雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書を作成して、これを解雇通知書の写しとともに、管轄のハローワークに提出します。

そして、ハローワークから離職票を受け取り、受け取った離職票をそれぞれの従業員に交付します。その後は、従業員が自らハローワークに離職票を提出して、失業保険の受給手続きを行うことになります。

なお、破産による解雇などの会社都合の退職の場合は、自己都合の退職と異なり、(受給開始まで)3ヶ月間の給付制限がなく、従業員は、速やかに失業保険を受給することができます。

よって、破産による解雇の場合は、離職票をハローワークに提出し、7日間の待機期間が経過した翌日から失業保険を受給することができます。


社会保険の手続き



会社を破産する場合、会社は、管轄の年金事務所に適用事業所全喪届と各従業員の資格喪失届を提出して、社会保険の適用事業所廃止の手続を行う必要があります。

会社は、従業員の健康保険証を回収した上で、管轄の年金事務所に資格喪失届と一緒に提出(返却)します。

従業員は、次の就職先が決まっているのであれば、その転職先の社会保険に加入します。

まだ転職先が決まっていない場合には、従業員は破産する会社の社会保険の資格を喪失しますので、従業員自らが国民健康保険および国民年金に切り替える必要があります(健康保険については、後述の任意継続も利用できます)。

従業員は、国民健康保険については各自の住所地の市区町村役場で、国民年金については各自の住所地の年金事務所で手続を行うことになります。

破産によって退職した従業員は、健康保険については国民健康保険だけでなく、一定の条件を充たせば、退職後2年間は任意継続を選択できます。

任意継続とは、会社に在籍中に加入していた健康保険に継続して加入できる制度です。

国民健康保険と任意継続のどちらを選択するかはケースバイケースであり、どちらの保険料が安いかなどを踏まえて選択することになるでしょう。


住民税の手続き



会社の従業員の住民税は、通常、特別徴収により給料から天引きし、会社から各従業員の住所地の市区町村に納税しています。

会社が破産する場合、従業員の住民税について特別徴収から普通徴収に切り替える必要があります。

具体的には、会社は、それぞれの市区町村役場に対し、給与所得者異動届を提出する必要があります。

そして、従業員に対しては、普通徴収への切り替え後は、住民税は各自で納付してもらう必要があることを説明しておく必要があります。


源泉徴収票の交付



源泉徴収とは、従業員の毎月の給与から源泉所得税を差し引いて納税する制度をいいます。つまり給与を支払う会社が従業員の代わりに所得税を徴収して、まとめて納税する制度です。

源泉徴収票には、従業員の1年間の収入と納付した所得税額を記載されています。源泉徴収票は、従業員が確定申告を行う場合や再就職先での年末調整をするために必要となります。

よって、会社が破産する場合には、解雇による離職日までの源泉徴収票を作成し、従業員に速やかに交付しなければなりません。


従業員への未払い給料と退職金の取り扱いについて


会社が破産する場合、その会社は消滅してしまいますので、従業員は解雇されることになります。

しかし、従業員からすれば、解雇はやむを得ないとしても、働いた分の給料や退職金も支給されないとすると当面の生活にも影響しますので、当然、未払い給料等が支払われることを希望しているでしょう。

また、従業員を解雇するにあたっては、30日前に解雇予告をする必要があり、解雇予告をしないで解雇する場合には、解雇予告から解雇日までの日数に応じて、解雇予告手当を支払わなくてはなりません。

破産する会社としても、従業員の給料や解雇予告手当は支払えるように計画を立てて破産を準備することが望ましいでしょう。

しかし、会社の資金不足のため、従業員の給料や退職金などの賃金、解雇予告手当を支払えないこともあり得ます。

このような未払い賃金等は、従業員の生活への影響も大きいことから、破産手続きにおいて次のような特別の取り扱いを受けることになります。


破産手続きにおける未払賃金等の取り扱い



破産する会社であっても、給料や解雇予告手当を破産前に全額支払い、未払い給料等がなければそれに越したことはありませんが、現実的には、未払い給料等を全額支払うことができないまま、会社が破産に至ることもあり得ます。

従業員の給料・退職金等の賃金が未払いであった場合、その賃金請求権も債権ですから、その従業員は債権者として破産手続に参加できます。

そして、従業員の給料や退職金などの労働債権は、「財団債権」または「優先的破産債権」として扱われ、他の一般の破産債権よりも破産手続きの中で優先的な扱いがなされています。

この未払賃金のうち、破産手続の開始前3ヶ月間の給料分は財団債権と言って、破産手続の中では最優先で支払われる債権になります。

その他の未払賃金(破産手続開始3ヶ月前よりも以前の賃金)も、優先的破産債権となり、一般の破産債権よりも優先されます。

また、退職金が発生している従業員については、退職金の額も債権者一覧表に計上します。

退職金のうち、退職前3ヶ月間の給料の合計額に相当する額は財団債権となり、それ以外の部分は優先的破産債権となります。

したがって、ある程度の破産財団(破産会社に残っている財産のことです)が形成できた場合には、破産手続において、給料や退職金などの労働債権は一般の破産債権よりも優先的に支払われることになります。

他方で、破産財団が十分に形成できない場合(破産会社に財産が残っていない場合)には、未払い給料などの労働債権であっても、支払われないままに破産手続きが終わってしまうことになります。

そこで、破産財団が確保できず、破産手続きの中で労働債権が支払われない場合であっても利用できる制度として、次の「未払賃金立替払制度」があり、この制度を利用すれば、従業員の賃金のうち一定額の支払を受けることができます。


未払賃金立替払制度とは



会社が従業員への給料などを未払いのまま破産してしまった場合に、従業員を救済する制度として「未払賃金立替払制度」があります。

未払賃金立替払制度とは、会社の倒産によって給料や退職金などの賃金が支払われないまま退職した従業員に対して、独立行政法人労働者健康安全機構が未払い賃金の一部を立替払いする制度のことをいいます。

破産財団が確保できず、破産手続きの中では労働債権が支払われない場合であっても、この未払賃金立替払制度を利用することによって、全額ではないにしても、従業員の賃金のうち一定額を支払ってもらえます。

未払賃金立替払制度では、次の条件を満たす範囲で未払い給与や退職金の立替払いが受けられます。

【立替払の金額の条件】

・従業員が退職した日の6ヶ月前~立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払いの給与や退職金

未払いになっている給与や退職金の8割(退職時の年齢により88万円~296万円の範囲内で上限あり)


ボーナスや総額2万円未満の支払い、解雇予告手当などは立替払いの対象外となります。

この未払賃金立替払制度を利用するには、会社が倒産(事実上の倒産または法律上の倒産)したなどの一定の要件を満たすことが必要です。

また、未払賃金立替払制度の利用には、倒産した会社で働いていたことを証明するために、タイムカードや賃金台帳などの資料の提出が必要となります。

重要なこととして、解雇から6ヶ月を経過して破産の申立てがされた場合は、この制度を利用することができません。

そのため、会社経営者としては、従業員が未払賃金立替払制度を利用できるようにタイムカードや賃金台帳などの資料をまとめ、速やかに会社破産の申立を行う必要があると言えるでしょう。

※なお、未払賃金立替払制度の詳細については、”労働者健康安全機構のページ”をご覧ください。


会社破産と従業員への影響のまとめ


いかがでしたしょうか?

会社の破産によって従業員は解雇され、一人一人の従業員の人生に大きな影響を及ぼすことになります。そのため、会社としては、従業員の再就職や再出発のために最善を尽くすことが必要となります。

従業員の再出発のためには、できる限り賃金を確保すべきことはもちろんのこと、会社の最後の責任として、雇用保険や社会保険、住民税、源泉徴収などの手続きを確実に行うことが必要です。

もっとも、会社の破産に際しては、会社経営者の方も不慣れで、手続きの見通しや先行きについて心配されている方もいらっしゃることでしょう。

そのため、会社破産を考えられている方は、安心してスムーズに会社破産を進められるように、会社破産の手続きや従業員対応に強い弁護士に依頼することをお勧めします。

(記事更新日 2023.12.13)

この記事の監修者
弁護士 白川 謙三

弁護士 白川 謙三(大阪弁護士会所属)
大阪・北浜の平野町綜合法律事務所代表
弁護士21年目。債務整理、自己破産、個人再生、過払い金請求などの解決事例多数。
ご相談に真摯に耳を傾け、ご希望の沿った解決をサポートします。借金問題のご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問合せください。

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