会社が破産したら、従業員(社員)の給料や退職金はどうなりますか?

会社が破産する場合、その会社は消滅しますので、従業員は解雇されることになります。

しかし、従業員からすれば、解雇はやむを得ないとしても、働いた分の給料や退職金、解雇予告手当が支給されないとすると当面の生活にも影響しますので、当然、未払い給料等が支払われることを希望していると思います。

破産する会社としても、従業員の給料や解雇予告手当はできる限り支払えるように計画して、破産を準備することが望ましいでしょう。

しかし、会社の資金不足のため、従業員の給料や退職金、解雇予告手当を支払えないことがあり得ます。

このような未払い賃金等は、従業員の生活への影響も大きいことから、破産手続きにおいて特別な取り扱いを受けることになります。

この記事では、会社が破産する場合に給料や退職金がどのような取り扱いを受けるかについて詳しく解説していきます。



会社破産と給料の取り扱い


破産する会社であっても、給料を破産前に全額支払い、未払い給料がなければそれに越したことはありませんが、現実的には、未払い給料を全額支払うことができないまま、会社が破産に至ることもあり得ます。

そのような場合、従業員は当面の生活費や家賃の支払いなどにも困ることになってしまいます。

従業員の給料が未払いであった場合、賃金請求権も債権ですから、従業員は債権者として破産手続に参加できます。

そして、従業員の給料などの労働債権は、従業員の生活の糧になるものですから、「財団債権」または「優先的破産債権」として扱われ、他の一般の破産債権よりも破産手続きの中で優先的な扱いがなされています。


給料の範囲に含まれるもの



労働債権として優先的に扱われる「給料」とは、労働の対価として支払われるものであり、賃金、給料、手当等の名称を問いません。残業手当、役職手当、家族手当、住宅手当等の各種手当も「給料」に含まれます。

賞与(ボーナス)も「給料」に含まれます。

解雇予告手当は「給料」に含まれないと考えられています。

退職金も「給料」とは若干取り扱いが異なります。

もっとも、後述のとおり解雇予告手当や退職金も労働債権として、他の一般の破産債権よりも優先的な扱いがなされています。

「給料」を受け取る「使用人」の範囲については、正社員に限らず、パート・アルバイト、期間工、嘱託工なども含まれます。

代表取締役(社長)の収入は役員報酬ですので、労働債権としての「給料」には該当しません。


破産手続き開始前3か月間の給料(財団債権)



未払賃金のうち、破産手続の開始前3か月間の給料分は財団債権と言って、破産手続の中では最優先で支払われる債権になります。

税金・社会保険料等も一定の要件を充たせば財団債権となり、財団債権となる未払い給料はこれらの税金等と同列に扱われます。

財団債権となる未払い給料は、貸付金や売掛金などの破産債権の配当手続きに先立って、破産した会社の資産から優先的に支払いを受けることができます。

よって、ある程度の破産財団(破産会社に残っている財産のことです)が形成できた場合には、破産手続において、財団債権となる未払い給料は一般の破産債権よりも優先的に支払われることになります。


破産手続開始前3か月より前の給料(優先的破産債権)



破産手続開始前3か月より前に支給されるべき給料(財団債権には該当しない給料)は破産債権となり、配当によって支払われることになります。

もっとも、財団債権に該当しない未払い給料についても、破産債権の中で最も優先される優先的破産債権として扱われます。そのため,一般の破産債権よりも優先して配当されることになります。

優先的破産債権は、財団債権には劣りますが、他の一般の破産債権(貸付金や売掛金など)よりも優先的に配当を受けることになります。

このように、労働債権としての給料は財団債権として認められる範囲が優先的に支払われ、優先的破産債権がその次に支払われます。


給料の取り扱い(一般破産債権より優先する)

①破産手続き開始前3か月間の給料

財団債権として、破産手続の中では最優先で支払われる。

②破産手続開始前3か月より前の給料

優先的破産債権として、配当手続きにおいて一般の破産債権よりも優先して支払われる。

③貸付金や売掛金などの債権

一般破産債権として、財団債権や優先的破産債権への支払がなされた後に、配当を受けることができる。


会社破産と解雇予告手当の取り扱い


解雇とは、使用者である会社が、従業員との雇用契約を一方的に解約することです。解雇は、従業員に対して解雇を通知することによって行われます。

解雇の通知は口頭でも有効ですが、通常は解雇通知書を作成して、従業員に交付することになります。

使用者である会社は、従業員を解雇しようとする場合、30日以上前に解雇を予告しなければなりません。

30日前まで解雇を予告しないときは、30日分以上の平均賃金を支払わなくてはなりません(労働基準法20条1項)。これを解雇予告手当と言います。

解雇予告手当は給料には含まれず、財団債権には該当しないと考えられています。

もっとも、解雇予告手当も労働債権として優先的破産債権に該当します。

よって、破産手続きの中では、解雇予告手当も他の一般の破産債権(貸付金や売掛金など)よりも優先的に配当を受けることができます。

しかし、解雇予告手当は未払い給料とは異なり、労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度の対象にはなりません(詳しくは後述の「未払賃金立替払制度とは」参照)


会社破産と退職金の取り扱い


会社が破産する場合、従業員は給料や解雇予告手当の他、退職金を受領できないまま、会社が破産に至ることもよくあるでしょう。

従業員の退職金請求権も債権ですので、退職金に未払いがあった場合には、従業員は債権者として破産手続に参加できます。


従業員に退職金を支払うべき場合



会社が破産すると従業員は解雇され、退職金の支払いが問題となってきます。

しかし、従業員が退職したとしても、使用者である会社は必ず退職金を支払わなければならないわけではありません。

従業員が退職金を請求できるためには、会社の中で退職金制度が設けられており、退職金規程等において、具体的な退職金の支払い金額や支払い条件が定められていることが必要です。

会社に退職金制度がなく、過去に恩恵的に支給されていただけの場合は、従業員の退職金請求権は認められません。

従業員の退職金請求権が認められる場合は、他の債権と同様、破産手続きにおける支払いの対象になります。


破産手続きでの退職金の取り扱い



従業員に退職金請求権が認められる場合には、財団債権または優先的破産債権として、他の一般の破産債権よりも破産手続きの中で優先的に支払われることになります。

従業員の退職金請求権のうち、退職前3か月間の給料総額と破産手続開始前3か月間の給料総額のいずれか高額な方に相当する金額は、財団債権として最優先で支払いを受けることができます。

そして、財団債権に該当しない退職金請求権は優先的破産債権として扱われます。

このように、退職金が財団債権と優先的破産債権のどちらに該当するかは少し専門的な話になりますが、いずれにしても退職金請求権は、未払い給料と同じく、破産手続きの中で他の一般の破産債権よりも優先的に支払いを受けることができます。


退職金の取り扱い(一般破産債権より優先する)

①財団債権となる退職金

退職金のうち、退職前3か月間の給料総額と破産手続開始前3か月間の給料総額のいずれか高額な方に相当する金額は財団債権となり、破産手続の中では最優先で支払われる。

②優先的破産債権となる退職金

財団債権に該当しない退職金は優先的破産債権となり、配当手続きにおいて一般の破産債権よりも優先して支払われる。

③貸付金や売掛金などの債権

一般破産債権として、財団債権や優先的破産債権への支払がなされた後に、配当を受けることができる。


中退共や保険会社からの退職金の取り扱い



退職金の支払いに備えて、会社において中小企業退職金共済(中退共)や民間保険会社の退職金保険等に加入している場合があります。

使用者である会社が破産し、従業員が解雇により退職となった場合、中退共などから共済金等として退職金の全部または一部が支払われることになります。

従業員は会社の破産の影響を受けることなく、これらの共済金や保険金を受け取ることができます。

破産する会社が中退共等に加入している場合には、従業員がスムーズに共済金等を受け取れるように、手続に必要な書類を準備しておくべきでしょう。


確定拠出年金の取り扱い



最近は、会社が退職金制度から確定拠出年金に移行している場合があります。

確定拠出年金についても、会社の破産により影響を受けることはありません

確定拠出年金は会社の財産とは別に管理されているからです。

積み立てた年金については、会社が破産しても残高が残る仕組みになっているため、確定拠出年金は保護されます。


未払賃金立替払制度とは


未払賃金立替払制度とは、会社の倒産によって給料や退職金などの賃金が支払われないまま退職した従業員に対して、独立行政法人労働者健康安全機構が未払い賃金の一部を立替払いする制度のことをいいます。

これまで述べたとおり、未払い給料や退職金は「財団債権」または「優先的破産債権」として、破産手続きの中で優先的な扱いがなされています。

しかし、破産財団が十分に形成できない場合(破産会社に財産が残っていない場合)には、未払い給料などの労働債権であっても、支払われないままに破産手続きが終わってしまうことになります。

そこで、会社が従業員への給料などを未払いのまま破産してしまった場合(しかも会社には財産が残っていない場合)に、従業員を救済する制度として「未払賃金立替払制度」があります。


未払賃金立替払制度の利用条件



未払賃金立替払制度は、次の全ての条件を満たした場合に利用できます。

【未払賃金立替払制度の利用条件】

・倒産した会社が1年以上事業活動していた

・会社が倒産(事実上の倒産または法律上の倒産)した

・社員が倒産について裁判所への申立て(法律上の倒産の場合)や労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6ヶ月前の日~2年の間に退職していること


倒産には「事実上の倒産」と「法律上の倒産」の2つの種類があります。

事実上の倒産とは、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がない場合のことであり、労働基準監督署長の認定が必要になります。

一方、法律上の倒産とは、裁判所の手続きによる破産、特別清算、民事再生、会社更生のことであり、破産管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。


未払賃金立替払制度の立替金額



未払賃金立替払制度では、次の条件を満たす範囲で未払い給与や退職金の立替払いが受けられます。

【立替払の金額の条件】

・従業員が退職した日の6ヶ月前~立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払いの給与や退職金

未払いになっている給与や退職金の8割(退職時の年齢により88万円~296万円の範囲内で上限あり)


立替払いされる金額は未払い賃金の8割ですが、年齢に応じて上限があり、45歳以上の場合は296万円、30歳以上45歳未満の場合は176万円、30歳未満は88万円が上限となっています。

ボーナスや総額2万円未満の支払い、解雇予告手当などは立替払いの対象外となります。


未払賃金立替払制度の注意点



未払賃金立替払制度の利用には、倒産した会社で働いていたことを証明するために、タイムカードや賃金台帳などの資料の提出が必要となります。

また、重要なこととして、解雇から6ヶ月を経過して破産の申立てがされた場合は、この制度を利用することができません。

そのため、会社経営者としては、従業員が未払賃金立替払制度を利用できるようにタイムカードや賃金台帳などの資料をまとめ、速やかに会社破産の申立を行う必要があると言えるでしょう。


※未払賃金立替払制度の詳細は、労働者健康安全機構に問い合わせすることをおすすめします。
参考:独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」のページ


会社破産と給料・退職金のまとめ


いかがでしたしょうか?

会社が破産した場合の給料や退職金の取り扱いについては少し専門的な話になりましたが、給料や退職金は従業員の生活の糧になるものですので、優先的な取り扱いを受けることはお分かり頂けたと思います。

そうはいっても、会社の破産によって従業員は解雇され、一人一人の従業員の人生に大きな影響を及ぼすことになります。また、従業員が給料や退職金の全額を受け取れないことがあることも否定できません。

従業員の再出発のためには、会社はできる限り従業員の賃金を確保すべきであり、賃金を全額支払えない場合には、速やかに未払賃金立替払制度などを利用できるように努めるべきでしょう。

もっとも、会社の破産に際しては、会社経営者の方も不慣れで、これらの手続きの見通しや先行きについて心配されている方もいらっしゃると思います。

そのため、会社破産を考えられている方は、安心して会社破産を進められるように、会社破産の手続きや従業員対応に強い弁護士に依頼することをお勧めします。

(記事更新日 2023.12.15)

この記事の監修者
弁護士 白川 謙三

弁護士 白川 謙三(大阪弁護士会所属)
大阪・北浜の平野町綜合法律事務所代表
弁護士21年目。債務整理、自己破産、個人再生、過払い金請求などの解決事例多数。
ご相談に真摯に耳を傾け、ご希望の沿った解決をサポートします。借金問題のご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問合せください。

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