会社破産・法人破産にはどのような書類が必要ですか(必要書類)?
会社・法人の破産の最大のメリットは資金繰りの悩みから解放されることにあります。
会社・法人が破産すると、破産手続が終了すると同時にその会社・法人の法人格は消滅します(会社・法人が消滅してなくなります)。
そして、判例によれば、「会社の法人格が消滅した場合には、これにより会社の負担していた債務も消滅する」とされています(最高裁判所平成15年3月14日判決)。
つまり、会社・法人の破産によって、会社・法人が負担する債務も全てなくなります。
これにより会社・法人の代表者や関係者も新たな再出発をすることができるようになります。
このような重大な効果が生じるため、破産申立てをする際には、裁判所から様々な書類を提出するよう求められます。
そこで今回は、会社・法人の破産申立てに必要である代表的な書類について、紹介いたします。
※会社・法人が破産する場合、代表者個人も同時に破産することが多いでしょう。 代表者個人の破産申立ての必要書類については、関連記事:「自己破産にはどのような書類が必要ですか(必要書類)?」をご覧ください。
・会社破産・法人破産の必要書類の一覧
・登記事項証明書(会社・法人)
・取締役会議事録、または取締役全員の同意書
・決算報告書、税務申告書控え、総勘定元帳
・会社・法人の資産に関する書類
・会社・法人の債務に関する書類
・会社破産・法人破産の申立て書類の一覧
・会社破産・法人破産と必要書類のまとめ
会社破産・法人破産の必要書類の一覧
会社・法人の破産を弁護士に依頼するにあたって、次のような書類を準備する必要があります。
これらの書類は、裁判所や破産管財人に対する提出書類となります。
会社・法人が実在していること、本店所在地、代表取締役などの役員は誰かなどを明らかにするために,その会社・法人の登記事項証明書(商業登記簿謄本とも言います)を提出する必要があります。
発行後3ヶ月以内の登記事項証明書が必要となります。
2 取締役会議事録、または取締役全員の同意書
株式会社が取締役会を設置している会社(取締役会設置会社)の場合、取締役会において破産申立てをすることについて決議をする必要があり、取締役会議事録を提出する必要があります。
取締役会設置会社の場合でも何らかの事情によって取締役会を開催できない場合、または、そもそも会社が取締役会を設置していない会社(取締役会非設置会社)の場合は、破産申立てについての取締役全員の同意書をもって取締役会の議事録に代えることができます。
株式会社以外の法人の場合は、破産申立てについて理事会決議などを経た上で、理事会議事録(または理事全員の同意書)などを提出する必要があります。
【準自己破産について】
以下のような事情で、破産申立てについての取締役会議事録や取締役全員の同意書が用意できない場合があります。
・ 代表者以外の取締役が名目的なもので、取締役会決議に協力してもらえない場合
・ 破産申立てについて、取締役の間で意見の対立がある場合
・ 代表者が行方不明であったり、死亡した場合
このような場合は、取締役の1人が単独で裁判所に会社の破産申立てすることができます。これを「準自己破産」と言います。
準自己破産による破産申立ての場合は、取締役会議事録などは不要となりますが、会社の破産を申し立てた取締役は、破産手続開始原因となる事実を疎明しなければなりません。
準自己破産の申立人は取締役個人ですが、予納金を会社の財産から支出することは認められています。
3 決算報告書、税務申告書控え、総勘定元帳
会社・法人の資産と負債の状況を客観的に把握するための資料として、決算報告書や確定申告書を提出する必要があります。
決算報告書の中の貸借対照表では、会社・法人の直近の資産と負債の状況を確認することができます。
損益計算書では、会社・法人の売上や経費がどれ位か、利益がどれ位出ているかを見ることができ、会社・法人の直近の経営状況を確認することができます。
また、決算報告書添付の勘定科目内訳明細書では、預貯金などの個々の資産・負債の勘定科目について、その明細(例:預貯金口座やその残高)を確認することができます。
確定申告書では、会社・法人の法人税や消費税の金額や支払状況を確認し、どのような減価償却資産があるか(不動産や車両、機械設備など)を確認することもできます。
総勘定元帳では、さらに詳細に各勘定科目について日々の記帳を確認することができます。
決算報告書や確定申告書、総勘定元帳は、少なくとも直近年度から順に過去2年分を提出する必要があります(それより前の決算報告書なども破産手続開始後に提出する必要が生じる場合もありますので,保管しておくべきでしょう)。
4 会社・法人の資産に関する書類
会社・法人の破産では、破産管財人が会社・法人が保有する資産を調査し、その換価を進め(お金に換えて)、それを債権者の債権額に応じて分配(配当と言います)することになります。
破産管財人が会社・法人の資産状況を把握するために、次のような書類が必要となります。
① 預貯金通帳
預貯金通帳については、おおよそ申立前2年分を提出します。通帳に一括記載(「合計記帳」、「おまとめ」など)がある場合には、その部分について、金融機関の取引明細書をお取り頂く必要があります。一括記載のままでは、通帳の入出金の流れが分からないからです。
なお、インターネットバンキングをご利用されている場合は、ウェブ上の取引明細書を印刷したものでかまいません。
当座預金については、当座勘定照合表を提出する必要があります。
② 売掛金の資料
売掛金の資料として、売掛台帳、請求書(控)、納品書などを提出します。
③ 貸付金の資料
会社・法人が第三者に金銭を貸し付けている場合は、金銭消費貸借契約書(借用書)などの資料を提出します。
④ 有価証券の資料
まだ支払いを受けていない受取手形・小切手がある場合は、破産管財人に受取手形・小切手を引き継ぎます
破産する会社・法人が他の会社の株券や出資証券、会員権証書などを有する場合も破産管財人に引き継ぎます。
証券会社を通じて株式や投資信託などの金融資産を有する場合には、直近の取引残高報告書などを提出することになります。
⑤ 不動産の資料
会社・法人が現在(または申立前2年以内に)不動産を所有している場合には、不動産の全部事項証明書や固定資産評価証明書を提出します。
不動産の全部事項証明書は法務局で、固定資産評価証明書は市役所や区役所で発行されます。
2年以上前に不動産を所有していた場合もこれらの書類が必要となる場合があります。
また、不動産業者が不動産の市場価格を査定した不動産査定書が必要となる場合もあります。
不動産の登記権利証・登記識別情報通知書は破産管財人に引き継ぎます。
不動産は破産管財人が売却することから、建物の鍵も破産管財人に引き継ぎます。
⑥ 自動車に関する資料
会社・法人が自動車やバイクを所有している場合は、車検証や登録事項証明書を提出します。
自動車の鍵も破産管財人に引き継ぎます。
自動車の評価に関する資料として、自動車業者が作成した査定書や有限会社オートガイド発行の「オートガイド自動車価格月報」(レッドブック)のコピーを提出します。
⑦ 貸借保証金・敷金の資料
会社・法人が事務所や工場を借りている場合は、賃借保証金や敷金の金額を確認するため、賃貸借契約書を提出します。
⑧ 保険解約返戻金の資料
会社・法人が保険(生命保険、医療保険、自動車保険など)に加入している場合、保険証券と解約返戻金見込額証明書を提出します。
解約返戻金見込額証明書は、保険を解約した場合に解約返戻金がいくら返ってくるかを保険会社に証明してもらう書面となります。
5 会社・法人の債務に関する書類
会社・法人の破産では、配当可能な資産がある場合には、債権者の債権額に応じて分配(配当)することになります。
配当後も残る債務については、破産手続きの終了により全て消滅することになります。
そのため、会社・法人の債務の種類や金額を正確に把握する必要があり、次のような書類が必要となります。
① 債務に関する資料
会社・法人の債務の状況を把握するため、債権者との間の契約書(金銭消費貸借契約書、リース契約書など)などの資料や債権者に債権の種類や内容、金額を回答してもらった債権調査票を提出する必要があります。
債券調査票は、破産申立てを受任した弁護士が債権者に提出を依頼する書類となります。
会社・法人が税金(公租公課)を滞納している場合には、税金の納付書や滞納処分に関する資料を提出します。
② 従業員関係の資料
会社・法人に従業員に対する未払給料や退職金があるかを確認するため、次のような書類を提出します。
また、これらの書類は従業員のために未払賃金立替払制度を利用する場合も必要となります。
・賃金台帳
・給料明細書、タイムカード、出勤簿
・就業規則、給与規程、退職金規程
・雇用契約書
・解雇通知書
未払賃金立替払制度とは?
会社・法人の倒産によって給料や退職金などの賃金が支払われないまま退職した従業員に対して、独立行政法人労働者健康安全機構が未払い賃金の一部を立替払いする制度のことをいいます。
会社・法人が従業員への給料などを未払いのまま破産してしまった場合(しかも会社・法人には財産が残っていない場合)に、従業員を救済する制度として「未払賃金立替払制度」があります。
会社破産・法人破産の申立て書類の一覧
依頼者が準備した必要書類をもとに、弁護士が会社・法人の破産の申立て書類を作成し、裁判所に提出します。
破産の申立て書類には次のようなものがあります。
1 破産手続開始申立書破産手続開始申立書は、会社・法人の破産を申し立てる際に管轄の裁判所に対して提出する書類です。
破産手続開始申立書には、申立てを行う会社・法人の名称や代表者、本店所在地を記載します。
申立ての理由として、債権者の人数と債務の総額などを記載します。
その他には、会社・法人の財産の回収見込額や破産管財人に引き継ぐ現金の金額などを記載します。
2 報告書
報告書では、会社・法人が破産申立てに至った経緯・事情、会社の現在の状況(事務所などの明け渡しの状況、従業員の解雇・離職手続きが完了しているか、売掛金等の回収の状況)などを詳しく記載します。
3 債権者一覧表
債権者一覧表には、各債権者の会社名、住所、債権の種類や債権額、借入れの時期などを記載します。
債権者一覧表では、債権の種類ごとにわかりやすくするために、借入金、買掛金、リース債権、労働債権(未払給料や退職金)、滞納公租公課などを分けて一覧表を作成します。
4 財産目録
会社・法人の財産状況について、例えば「預貯金・積立金目録」「自動車目録」「保険目録」などのように、各財産の項目ごとに財産の種類、金額などを目録に記載します。
これらの定型書式以外にも、個々の事案に応じて、弁護士が書類の補充や上申書を作成して事情を詳しく説明することがあります。
会社破産・法人破産と必要書類のまとめ
会社・法人の破産では必要書類も多岐にわたり、どのような書類が必要かをご自身で判断することは難しい面があります。
「どんな書類を準備したらいいのか分からない」
「作成しないといけない書類で記入ミスがあったら、面倒なことになりそうで心配」
「裁判所とのやりとりが面倒くさそう」
このような不安を抱えていらっしゃる方も多いと思います。
会社・法人に慣れた弁護士に依頼すれば、必要書類の内容の説明や入手方法に関するサポートが受けられ、スムーズに必要書類を収集することができます。
また、破産申立て書類の作成は弁護士でなければ難しく、経験豊富な弁護士に依頼することで申立て書類を作成するための打合せも要領よく進めることができます。破産に強い弁護士であれば、裁判所とのやり取りも安心して任せられるでしょう。
そのため、会社・法人の破産を考えていらっしゃる方は、まずは破産に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
(記事公開日 2023.7.20)