会社・法人が破産すると滞納税金や社会保険料はどうなりますか?|税金等の滞納により従業員に不利益はありませんか?

会社・法人(以下ではまとめて「会社」と言います。)の破産を検討しているけれども、滞納している税金や社会保険料がどうなるのか気になる方もいらっしゃると思います。

また、従業員の給料から天引きした税金(源泉所得税・住民税)や社会保険料を滞納している場合、従業員に迷惑がかかるのではないかと心配な方もいらっしゃるでしょう。

結論から申し上げますと、会社の税金や社会保険料は、会社の財産から支払うのが原則であり、破産手続きでは、破産管財人が破産した会社の財産から滞納税金や社会保険料は支払うことになります。

そして、会社に財産が残っておらず、滞納税金や社会保険料を完済できないまま、破産手続きが終了した場合は、会社自体が消滅しますので、原則として誰も滞納税金や社会保険料を支払う必要がなくなります。

また、会社が従業員の給料から源泉所得税、住民税、社会保険料を天引きしている場合、会社が納付義務者になりますので、従業員が会社の代わりにこれを請求されることはありません。

以下では、会社が破産した場合の滞納税金・社会保険料の取り扱いや従業員に与える影響について詳しく解説していきます。




会社の破産手続きにおける滞納税金等の取り扱い


破産手続きでは、裁判所により選任された破産管財人が、破産会社の財産を換価処分し、それによって得た金銭を債権者に弁済又は配当することになります。

税金や社会保険料などの公租公課も、破産会社に対する貸付金や売掛金などの破産債権と同様に、破産手続きにおける弁済や配当により満足を受けることになります。

そして、税金や社会保険料は、その多くが「財団債権」または「優先的破産債権として扱われ、他の一般の破産債権よりも優先的に支払いを受けることになります。

財団債権となる税金、社会保険料



税金や社会保険料のうち、次のものは財団債権と言って、破産手続きの中で最優先で支払われる債権になります。

よって、財団債権となる税金・社会保険料は、貸付金や売掛金などの破産債権の配当手続きに先立って、破産した会社の資産から優先的に支払われることになります。


財団債権となる税金、社会保険料
① 破産手続開始前の原因により発生した租税等の請求権で、手続開始当時、納期限が未到来又は納期限から1年を経過していないもの
② 破産手続開始後の原因により発生した租税等の請求権で、財団の管理、換価及び配当に関する費用に該当するもの
③ ①及び②の延滞税


優先的破産債権になる税金、社会保険料



財団債権に該当しない税金や社会保険料であっても、後述の劣後的破産債権に該当するもの以外は、優先的破産債権として扱われます。

優先的破産債権は、財団債権には劣りますが、他の一般の破産債権(貸付金や売掛金など)よりも優先的に配当を受けることになります。

このように、税金や社会保険料は財団債権として認められるものが最優先で支払われ、優先的破産債権となるものがその次に支払われます。


劣後的破産債権になる税金、社会保険料



劣後的破産債権とは、破産財団から、財団債権,優先的破産債権,一般破産債権が全額支払われた後に弁済を受けることができる債権のことをいいます。

劣後的破産債権の例としては、本税が財団債権となる場合の加算税などがこれに該当します。

一般の破産債権について100パーセント配当がされることはほとんどありませんので、劣後的破産債権については、事実上配当を受けられないということになります。


このように税金や社会保険料も、破産会社に対する貸付金や売掛金などの破産債権と同様に、会社財産の範囲内で、弁済や配当を受けることになります。

そして、税金や社会保険料は、その多くが「財団債権」または「優先的破産債権」として、他の一般の破産債権よりも優先的な弁済や配当を受けられます。


破産手続き終了による会社の消滅と滞納税金等の消滅


会社破産をして、会社にほぼ財産が残っていなかったため、会社の財産から税金や社会保険料が支払いきれなかった場合はどうなるでしょうか?

会社が破産すると破産手続終了と同時にその会社の法人格は消滅します。

債務者である会社が消滅する以上、その会社の債務も消滅すると考えざるを得ません。判例も「会社の法人格が消滅した場合には、これにより会社の負担していた債務も消滅する」としています(最高裁判所平成15年3月14日判決)。

会社の負担していた債務が消滅するということは、つまり会社の負う債務をすべて免れることができるということです。ポイントはすべての債務を免れるという点にあります。

そのため、会社の破産手続きが終了すると、会社の法人格が消滅し、会社の債務である滞納税金や社会保険料も消滅することになります。

よって、会社の破産手続きでは滞納税金や社会保険料を完済できないまま、破産手続きが終了した場合には、原則として誰も滞納税金や社会保険料を支払う必要がなくなります。


会社の破産手続きが終了しても、例外的に滞納税金等の支払義務が残る場合


以上のとおり、会社の破産手続きが終了すれば、原則として税金や社会保険料の支払いが残ることはありません。

しかし、例外的に会社の破産手続きが終了しても、以下の2つのケースでは、滞納税金等を会社関係者が支払わなければならないことがあります。

【滞納税金等の支払義務が残るケース】
・納税保証書を提出している場合
・会社関係者が第二次納税義務を負う場合

以下では、この2つのケースについて解説します。


納税保証書を提出している場合



悪質な申告漏れなどで高額の追徴課税を受けてしまった場合などに、納税の猶予や分納を認めてもらうため、会社代表者などが納税保証書の提出を要求されることがあります。

納税保証書は、金融機関に対する保証人と同様、会社の税金を納税することを会社代表者などの個人が保証するものです。

そのため、たとえ会社が破産したとしても、納税保証書を提出した個人は、会社が滞納した税金を納めるよう請求されることになります。


会社関係者が第二次納税義務を負う場合



第二次納税義務とは、本来納税義務を負っている人(納税義務者)に滞納処分をしても徴収すべき税金額が足りなかった場合に、二次的に納税義務を負うことになる人のことを指します。

第二次納税義務は国税徴収法32条以下に定められており、具体的には次のような場合があります。


第二次納税義務が認められるケース
① 合名会社や合資会社の無限責任社員(国税徴収法33条)
② 会社の清算人が税金等を支払わずに財産の分配をしてしまったケースの清算人等(国税徴収法34条)
③ 共同的な事業者としての要件を充たす同族会社の株主等(国税徴収法37条)
④ 会社から事業を譲り受けた特殊関係者(国税徴収法38条)
⑤ 会社から無償又は著しい低額で財産を譲り受け、無償又は著しい低額で債務を免除してもらった譲受人等(国税徴収法39条)

以上のようなケースでは、会社が破産したとしても、関係者が第二次納税義務を負うため、滞納していた税金などの支払義務が残ります。

もっとも、第二次納税義務が発生するケースは例外的であり、通常は会社の破産手続きが終了すると、会社の債務である滞納税金や社会保険料も消滅し、誰も滞納税金や社会保険料を支払う必要がなくなります。


※第二次納税義務(国税徴収法32条以下)の条文については、”e-Gov法令検索「国税徴収法」のページ”をご覧ください。


個人の破産と会社の破産の違いについて


これまで述べたとおり、会社の破産の場合は、債務者である会社自体がなくなることから、税金や社会保険料を含むすべての債権が消滅します。

これに対して、個人の破産の場合、税金や社会保険料などの租税等の請求権は非免責債権であるとされています(破産法253条1項)。  

非免責債権は、自己破産をして免責許可決定を受けても、支払義務が免除されるわけではないので、注意が必要です。

このように個人の方の破産の場合は、免責許可決定を受けても税金や社会保険料の支払義務は残ることになります。

そのため、税金や国民健康保険料の支払いがどうしても難しい場合は、早めに税務署や市町村役場に相談しましょう。

税金を支払う意思はあっても、家計が苦しく、支払うことが困難である事情を話せば、分割での納付(分納)が認められることがあります。

また、予測できない失業や大幅な所得減少、生活困窮など特別な事情により、税金や国民健康保険料の全額負担が困難であると認められる場合には、減額・免除申請が認められることもあります。


税金・社会保険料の滞納処分


会社でも個人でも、破産などの法的手続きに入ることもなく、税金や社会保険料を滞納していると、滞納処分を受けることがあります。

滞納処分とは、税金や社会保険料の滞納者の財産が差し押さえて、その財産を換金し、滞納税金・社会保険料等の納付に充てることです。

本来であれば、裁判所が決定する差押えなどの手続きを、課税している行政庁が自ら行うことができるという強力な権限が与えられています。

会社が税金や社会保険料を滞納している場合、破産手続きを躊躇している間に、税務署や年金事務所から滞納処分が行われ、事態が悪化してしまうことも考えられます。

そのため、税金や社会保険料の滞納がある場合には、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。


税金・社会保険料の滞納と従業員への影響


破産した会社が従業員の給料から天引きした源泉所得税、住民税、社会保険料の納付を滞納していた場合、従業員に不利益が生じることになるでしょうか?

結論としては、会社が従業員の給料から天引きした源泉所得税、住民税、社会保険料を滞納していても、基本的には従業員に影響はありません。

源泉所得税、住民税、社会保険料は、会社が徴収し納付義務者になりますので、破産した会社が財団不足のため、これらを納付できなかったとしても、従業員に納税(納付)義務が生じることはありません。

また、会社が厚生年金保険料を給与から天引きしているにもかかわらず、納めていなかったからといって従業員の厚生年金の受給額が減らされることもありません。

もっとも、例えば、会社が従業員の給料から特別徴収した住民税を滞納している場合、従業員が市役所等から納税証明書を取得する際に支障が生じる可能性があります。

このように会社が従業員の給料から天引きした源泉所得税、住民税、社会保険料を滞納していたとしても、従業員が代わりに請求されることはありませんが、従業員に不利益な影響が全くないとも言い切れません。

従業員に不利益がないようにするためには、会社の破産準備と同時に、

① 源泉所得税については税務署への報告
② 住民税については特別徴収から普通徴収への異動届出書の提出
③ 社会保険については資格喪失届の提出

などの離職手続きを完了させて、従業員の給料から天引きした源泉所得税、住民税、社会保険料の金額を明らかにしておく必要があります。

また、会社が従業員の給料から天引きした源泉所得税、住民税、社会保険料は従業員からの預り金ですので、本来は課税庁に納付すべきであり、事業資金に流用することはないようにすべきでしょう。


会社破産と滞納税金・社会保険料のまとめ


以上のとおり、会社の破産手続きにおいて、税金や社会保険料は、その多くが「財団債権」または「優先的破産債権」として扱われ、他の一般の破産債権よりも優先的に支払われることになります。

そして、会社に財産が残っておらず、滞納税金や社会保険料を完済できないまま、破産手続きが終了した場合は、会社自体が消滅しますので、原則として誰も滞納税金や社会保険料を支払う必要がなくなります。

また、会社が従業員の給料から源泉所得税、住民税、社会保険料を天引きしている場合、会社が納付義務者になりますので、従業員が会社の代わりにこれを請求されることもありません。

もっとも、会社が税金や社会保険料を滞納している場合、破産手続きを躊躇している間に、税務署や年金事務所から滞納処分が行われ、事態が悪化してしまうことも考えられます。

そのため、税金や社会保険料の滞納がある場合には、なるべく早く会社破産に強い弁護士に相談して、方針を決められることをおすすめします。

(記事更新日 2024.8.17)

この記事の監修者
弁護士 白川 謙三

弁護士 白川 謙三(大阪弁護士会所属)
大阪・北浜の平野町綜合法律事務所代表
弁護士21年目。債務整理、自己破産、個人再生、過払い金請求などの解決事例多数。
ご相談に真摯に耳を傾け、ご希望の沿った解決をサポートします。借金問題のご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問合せください。

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