自己破産すると退職金はどうなりますか?|退職金の評価方法や自由財産となる範囲について解説
「自己破産すると退職金も没収される?」
「退職金が差押えされて、自己破産が会社にバレるのでは?」
と不安に感じている方もいらっしゃると思います。
退職金債権は財産であるので、自己破産によって没収される可能性はあります。
しかし、自己破産をしても、破産者の生活再建のため自由財産が認められ、退職金が自由財産の範囲に収まる場合は、没収されることはありません。
結論から言うと、自己破産をしても、退職金を没収されることはほとんどないと考えられます。
この記事では、退職金の評価方法や自由財産となる範囲について詳しく解説していきます。
・退職金は原則8分の1で評価される
・現在の退職金見込額を確認する方法
・自己破産での退職金の取り扱い
・自己破産手続きの種類(同時廃止と管財事件)
・退職金が影響を受けない場合と破産財団への組入れが求められる場合
・自己破産しても差押えの対象とならない退職金
・自己破産と退職金のまとめ
退職金は原則8分の1で評価される
まず、退職金の評価額がどのように決まるかについて解説します。
以下に述べるとおり、退職金は、現在の退職金見込額の「8分の1」で評価されることが原則となります。
退職金の受け取りがまだ先の場合
まだしばらくの間は今の職場で仕事を続け、退職する予定がない場合は、退職金は、現在の退職金見込額(仮に現時点で自己都合退職した場合の退職金支給の見込額)の8分の1で評価されます。
そもそも退職金債権の4分の3は差押禁止債権とされていることから(民事執行法152条2項)、破産財団に帰属する退職金債権は4分の1と評価することもできます。
しかし、将来、勤務先が倒産するなどして退職金の支給が受けられない可能性もあることから、退職金債権は4分の1よりもさらに小さいものと評価され、8分の1で評価されています。
そこで例えば、現在、自己都合退職した場合の退職金見込額が160万円である場合は、退職金の評価額は8分の1の20万円と評価されることになります。
退職が間近である場合
例えば、半年以内に定年を迎えるなど、退職金支給が近々行われる場合は、退職金見込額の8分の1ではなく、4分の1あるいはそれに近い額を評価額とするなど、事案に応じた評価を行います。
破産手続開始決定前に退職したが、退職金の支給が未了の場合
この場合は、既に退職金債権が具体化していますので、破産開始後に支給された退職金の4分の1で評価することになります。
破産手続開始決定前に退職し、退職金を受け取っている場合
既に退職金を受け取っている場合、退職金は「現金」または「預貯金」に分類されます。
そのため、破産手続開始決定時の「現金」または「預貯金」として、その残額が財産として評価されることになります。
受領した退職金が「現金」または「預貯金」として全額残っている場合は、その全額が財産として評価されます。
勤務歴が5年未満である場合
現在の勤務先の勤務歴が5年未満である場合は、後述する退職金見込額証明書も必要なく、退職金はない(0円である)と評価されます(大阪地裁の場合)。
以上の退職金の評価額をまとめますと、次のとおりとなります。
退職金の評価額 |
---|
▋退職金の受け取りがまだ先の場合 現在の退職金見込額の8分の1で評価する。 |
▋退職が間近である場合 現在の退職金見込額の4分の1あるいはそれに近い額を評価する。 |
▋破産手続開始決定前に退職したが、退職金の支給が未了の場合 破産開始後に支給された退職金の4分の1で評価する。 |
▋破産手続開始決定前に退職し、退職金を受け取っている場合 「現金」または「預貯金」として、その残額が評価額となる。 |
▋勤務歴が5年未満である場合 退職金は0円であると評価される(大阪地裁の場合)。 |
現在の退職金見込額を確認する方法
上記のとおり、退職金は原則として、現在の退職金見込額(仮に現時点で自己都合退職した場合の退職金支給の見込額)の8分の1で評価されます。
そして、この現在の退職金見込額を確認する方法としては、勤務先に5年以上勤めていらっしゃる場合は、勤務先に退職金見込額証明書を発行してもらうことになります。
退職金見込額証明書は、仮に勤務先を自己都合で退職した場合に、現時点で退職金がいくら支給されるかを証明する書面です。
退職金見込額証明書を会社に発行してもらうと、自己破産することがバレて不都合がある場合は、勤務先の退職金支給規程のコピーを準備し、弁護士が退職金額を計算して、裁判所に報告する方法もあります。
自己破産での退職金の取り扱い
自己破産をした場合の退職金の取り扱いは、退職金の評価額によって異なります。
退職金評価額によって、自己破産の手続きの種類が変わったり(同時廃止と管財事件があります)、場合によっては、退職金評価額が自由財産の範囲を超える部分について破産財団に組み入れることを求められる場合があります。
なお、ここでいう退職金評価額は、これまで説明した現在の退職金見込額(仮に現時点で自己都合退職した場合の退職金支給の見込額)を原則8分の1で評価した金額のことを言います。
自己破産手続きの種類(同時廃止と管財事件)
自己破産の手続きには、同時廃止と管財事件があります。
同時廃止とは?
自己破産をする人に財産がほとんどない場合(生活に必要最低限の財産しかない場合)、債権者に財産を分配することはできません。
そのため、裁判所は破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をします(廃止とは終了という意味です)。これを「同時廃止」と呼びます。
同時廃止は基本的に書面審査で手続きが完了する簡便な手続きであり、費用も比較的安く済みます。
よって、できる限り同時廃止で自己破産の申立てをすることが、破産者にとっても負担が少ないと言えるでしょう。
管財事件とは?
破産する人にある程度の財産があり、同時廃止で手続きを進めることができない場合(財産の金額が同時廃止の基準を超える場合)は、破産管財人が選任される管財事件として自己破産の申立てをします。
管財事件の場合は、破産管財人が選任され、債権者集会が開かれるなど、同時廃止と比べてやや複雑な手続きとなります。
また、破産手続きの費用も、破産管財人の予納金が必要とされるなど、管財事件では同時廃止よりも高額になります。
退職金が影響を受けない場合と破産財団への組入れが求められる場合
自己破産をしても、全く無一文になるのではなく、破産者の生活再建のため、最大99万円の財産(自由財産)を所持したまま自己破産することが認められています。
そして、退職金も一定の金額の範囲内では、自由財産の一つとして、自己破産によっても影響を受けず、保持できることになります。
大阪地裁の取り扱いでは、退職金評価額が20万円未満であれば、退職金の財団組入は必要なく(没収されることなく)、同時廃止の手続きで自己破産をすることができます。
退職金評価額が20万円以上の場合は管財事件となりますが、管財事件の場合は、退職金評価額が預貯金等の他の財産と合わせて99万円以内である場合は、自由財産の拡張が認められますので、やはり退職金の財団組入は必要ない(没収されない)ことになります。
他方で、退職金評価額が自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合は、破産管財人から自由財産の範囲を超える部分(99万円を超える部分)について、破産財団への組入れを求められることになります。
具体的には、破産管財人は勤務先から退職金そのものを回収するのではなく、破産者に対し、退職金評価額のうち自由財産の範囲を超える金額(99万円の超過額)を破産管財人に引き渡すように請求することになるでしょう。
例えば、現在の退職金見込額が480万円(8分の1の退職金評価額が60万円)、預貯金が60万円ある場合は、全体の財産が120万円となりますから、120万円から99万円を控除した21万円を預貯金から破産管財人に支払うことで、退職金全額を自由財産として残しておくことができます。
以上をまとめると次のとおりとなります。
自己破産すると、退職金はどうなるか?(大阪地裁の場合) |
---|
▋退職金評価額が20万円未満の場合 同時廃止の手続きで自己破産が可能であり、退職金もそのまま残せる。 |
▋退職金評価額が20万円以上であるが、自由財産(最大99万円)の範囲内の場合 同時廃止ではなく管財事件となるが、退職金は自由財産の拡張により処分されず、そのまま残すことができる。 |
▋退職金評価額が自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合 破産管財人より自由財産の範囲(99万円)を超える金額を引き渡すように請求される。 |
※退職金評価額は現在の退職金見込額を1/8(原則)した金額を前提とする。
自己破産しても差押えの対象とならない退職金
会社によっては、自社内で積立てをしている退職金制度ではなく、退職金共済制度や企業年金を利用していることがあります。
退職金共済や企業年金などの例としては、次のようなものがあります。
退職金共済制度 |
---|
・中小企業退職金共済(中退共) ・小規模企業共済 ・社会福祉施設職員等退職手当共済 |
年金制度 |
・確定給付企業年金(DB) ・確定拠出年金(DC) ・厚生年金基金 など |
これらの退職金共済や企業年金などは「差押禁止財産」であるため、破産法上も自由財産として没収の対象にはなりません。
そのため、自己破産によっても影響を受けず、破産財団への組入れなどを求められることはありません。
自己破産と退職金のまとめ
退職金は、自己破産により処分される財産の一つではあります。
しかし、これまで述べたとおり、自己破産をしても、破産者の生活再建のため自由財産が認められます。
そして、退職金の評価額は原則として退職金見込額の8分の1で評価され、それが自由財産の範囲に収まる場合は、没収されることはありません。
退職金評価額が自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合は、破産管財人は勤務先から退職金そのものを回収するのではなく、破産者に対し、退職金評価額のうち自由財産の範囲(99万円)を超える金額を破産管財人に引き渡すように請求することになります。
具体的には、自由財産(最大99万円)の超過額を預貯金などから支払うことになるでしょう。
よって、自己破産をしても、実際は退職金そのものが没収されるということはないと考えられます。
退職金の評価方法や自由財産となる範囲を知りたい場合は、自己破産に強い弁護士に相談することをお勧めします。
(記事公開日 2025.9.29)