破産宣告(破産手続開始決定)とは何ですか?自己破産との違いは?|破産宣告の影響や効果を解説
借金が増えて返済できなくなって破産した、破産宣告を受けた、という話を聞いたことがあるかもしれません。
破産宣告や自己破産とは、どのようなものなのでしょうか?
以下では、破産宣告や自己破産の意味をわかりやすく紹介いたします。
破産宣告(破産手続開始決定)とは?
裁判所に自己破産の申立てをすると、裁判所は申立書類を審査します。
そして、その審査が通ると、破産宣告(破産手続開始決定)が出されます。
破産宣告(破産手続開始決定)とは、「あなたの破産の手続を開始します」という裁判所の決定であり、自己破産手続の一部です。
実は、現在の法律では「破産宣告」という用語は使われていません。破産宣告は、現在では「破産手続開始決定」と呼ばれています。
破産宣告(破産手続開始決定)が出ると、このような書面が裁判所から交付されます。
破産宣告の条件とは?
破産の申立てをしても、必要な条件を満たしていなければ破産手続開始決定は出されません。
以下では、破産宣告(破産手続開始決定)の条件を紹介いたします。
条件1:支払不能か債務超過であること(破産開始原因)
支払不能とは、継続して借金を返済していくことが難しい状態であることです。
債務超過とは、債務が財産を上回っている状態であることです。
個人の場合は「支払不能」であることが、破産手続開始の原因と定められています。
他方、法人(会社等)の場合は「支払不能」または「債務超過」であることが破産手続開始の原因と定められています。
(破産手続開始の原因)
第15条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
(法人の破産手続開始の原因)
第16条 債務者が法人である場合に関する前条第一項の規定の適用については、同項中「支払不能」とあるのは、「支払不能又は債務超過」とする。
条件2:破産障害事由がないこと
破産障害事由とは、破産手続を開始できない理由という意味です。
下記のようなものがあります。
・予納金を納めていない
破産手続を始めるには、必要な費用(予納金)を裁判所に納付しなければなりません。予納金が納付されるまでは、破産手続は開始されません。
・自己破産制度を濫用している
自己破産は最終的に債務の残額を帳消し(免責)にする制度であり、債務者は借金の返済を免れるという利益を受けますが、反面、債権者は大きな損失を被ることになります。
そのため、裁判所は、破産制度の濫用に当たらないか、言い換えると「破産の申立てが適正かどうか」も審査します。
例えば、最初から破産するつもりで借金をした場合は、「破産制度の濫用」と捉えられる可能性があります。
・自己破産以外の手続を利用している
個人であれば個人再生、法人であれば民事再生、会社更生、特別清算など、他の手続で借金の整理を進めている場合は、それらの手続が優先されます。
条件3:破産申立が適切であること
破産申立の書類や資料は、裁判所が指定する書式等で用意する必要があります。
破産宣告が出るとどうなるのか(破産宣告の効果)?
破産手続開始決定が出ると、様々な効果が生じます。以下では、破産管財人が選任される管財事件(※破産の原則的な方式)を前提に、破産宣告(破産手続開始決定)の効果を紹介いたします。
・財産の管理処分権が破産管財人に専属する
破産手続では破産管財人が債務者の財産を処分して、債権者に公平に弁済・配当をするので、財産の管理処分権は破産管財人に専属することになります。
破産管財人は、破産手続開始決定と同時に、裁判所により選任され、破産者の財産の管理・換価や債権者に対する配当等の手続きを行います。
現在の実務では、経験年数などの一定の条件を満たす弁護士の中から選任されています。
第七十八条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
・債権者は債務者に対して取立ができなくなる
破産手続が開始すると、債権者は破産手続によって弁済・配当を受けることになります。
他方で、債権者は、破産手続きの外では、直接、債務者に取立をすることができなくなります。
第百条 破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
・引越や旅行等が制限される
債務者は、破産手続が完了するまでは引越や旅行等が制限されます。
もっとも、転勤や家庭の事情などにより引越をする必要があることはいくらでも考えられますので、裁判所に住所変更許可の申立をすれば、ほとんどの場合、裁判所の許可を得ることができます。
第三十七条 破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。
・郵便物が破産管財人に転送される
破産手続が開始されると、破産管財人が破産者の財産等を調査するために、破産者宛の郵便物は破産管財人に転送されます。
・一定の職業に就くことが制限される
自己破産をすると、免責確定まで特定の職業に就くことができなくなる場合があります。制限される職業には、以下のようなものがあります。
もっとも、免責許可の決定が確定すると、資格制限はなくなりますのでご安心ください。
期間にすると約4か月から1年程の場合が多いでしょう。
弁護士 公認会計士 税理士 司法書士 公安委員会委員 公正取引委員会委員 宅地建物取引士 証券会社の外交員 商品取引所会員 貸金業者 警備員 質屋 生命保険募集員 損害保険代理店 信用金庫等の会員・役員 一般労働派遣事業者とその役員 日本銀行の役員 旅行業務取扱管理者
・官報に掲載される
官報とは、国が発行している機関誌です。政府や省庁の決定事項(法律や政令、条約、官庁の報告など)が掲載されており、公告のページに破産者の氏名等が掲載されます。
もっとも、官報を見ている人は少ないため、官報から破産したことが周囲に知られるということはあまりないでしょう。
・自己破産しても破産管財人が付かない場合(同時廃止)
破産宣告(破産手続開始決定)が出ても、破産管財人が付かない場合があります。
これを「同時廃止」と言い、個人の自己破産では、管財手続きではなく、同時廃止の手続きで進められる場合の方が多いでしょう。
同時廃止とは、破産手続開始時に財産がほとんどなく、裁判所が認める一定の基準額以下である場合に、裁判所が定める破産手続開始の決定と同時に破産手続の廃止(終了の意味です)を決定するという手続きです。
同時廃止ではそもそも破産管財人が選任されませんので、破産管財人が財産を管理処分するということはありません。
破産者宛の郵便物が破産管財人に転送されるということもありません。
また、同時廃止の場合は、原則として居住制限はなく、引っ越し等を行った場合には新しい住民票等を提出する必要はありますが、裁判所による許可が必要なわけではありません。
同時廃止の場合には、手持ちの財産は所持したまま、自己破産をすることができ、財産を清算する必要はありません。
同時廃止は基本的に書面審査で手続きが完了する簡便な手続きであり、費用も比較的安く済みます。
よって、できる限り同時廃止で自己破産の申立てをすることが、破産者にとっても負担が少ないと言えるでしょう。
免責許可決定とは?
破産宣告(破産手続開始決定)が出ると、債権者に配当する財産がある場合には、配当手続(各債権者の債権額に応じて破産者の財産を分配する手続)を経て、破産手続は終了します。
配当する財産がない場合も、破産手続の廃止決定により破産手続は終了します。
しかし、破産宣告が出た後(破産手続が開始した後)、破産手続が終了しても、それで当然に残りの債務がなくなるわけではありません。
裁判所が破産者を免責してもよいかを審査して、免責許可決定が出ることで、借金の返済を免れることができます。
免責が許可されない場合についてはこちら
→自己破産ができないケース(免責不許可事由)とはどういう場合でしょうか?
免責許可決定とは、残りの債務の支払を免責するという決定です。
この免責許可決定が出ることで、ようやく残りの債務(借金)から解放され、破産に関する手続はすべて終了します。
第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。
以下略
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は破産宣告(破産手続開始決定)の意味や効果について紹介しました。
自己破産は、裁判所に破産手続開始決定の申立をして、裁判所が破産宣告(破産手続開始決定)を出すことで始まり、破産管財人の配当等の手続を経て、破産手続きが終了します。
破産手続きが開始した後は、破産者の財産の回収や換価、債権の調査、配当手続を円滑に進めるために、
①破産管財人に財産の管理処分権が専属し、
②債権者は個別に破産者に権利行使ができなくなり、
③破産者も破産手続きに協力するため、様々な制限(引越や旅行等が制限されるなど)を受けることになります。
また、配当などによっても残った債務については、裁判所が破産者を免責してもよいかを審査して、免責許可決定が出ることで、ようやく借金の返済を免れることができます。
このように自己破産は借金の免責という絶大な効果をもたらしますが、破産手続の流れや破産宣告(破産手続開始決定)の条件や効果は素人ではなかなか判断できない複雑なものです。
そのため、もし借金の返済にお困りでしたら、一度、自己破産に強い弁護士に相談してみることをお勧めします。
(記事更新日 2024.2.25)