自己破産すると車はどうなりますか?車のローンが残っている場合で違いはありますか?|自己破産しても車を利用できる場合を解説
自己破産をした場合、車を手放さなければならないのか、不安な方も多いと思います。
結論から申し上げますと、資産価値がない車であり、既にカーローンも完済しているような場合は、自己破産によっても自動車を手元に残すことができます。
他方で、カーローンが残っており、ローン会社の所有権留保が認められる場合には、自己破産をするとローン会社に車を引き揚げられることになります。
以下では、自己破産をしたら車がどうなるか、車を手元に残せるのはどのような場合か、車を引き揚げられた後の対処法などについて、詳しく説明していきます。
・車のローンが残っている場合~原則として車は残せない
・車のローンが残っていない場合~資産価値がなければ車を残せる
・自己破産前に車を残すためにしてはいけないこと
・車の名義を変更する
・車を処分して受け取った代金を隠す
・自動車ローンだけを一括返済する
・自動車ローンだけを隠す
・車のローンを第三者に支払ってもらった場合(第三者弁済)は?
・配偶者や子供、親名義の自動車はどうなる?
・自己破産後でもローンで車を購入できる?
・自己破産後にローンを組んで車を購入できない理由
・事故情報が消えるのはいつ?いつから自動車ローンを契約できる?
・自己破産の直後に車を購入する方法
・自己破産以外の債務整理により車を残す方法
・任意整理による解決
・個人再生による解決
・自己破産と車のまとめ
車のローンが残っている場合~原則として車は残せない
車のローンが残っている場合は、車両ローンが完済されるまで、ローン会社に車両の所有者となっていることが多いです。これを所有権留保といい、普通自動車の車検証の所有者欄にもローン会社名やディ―ラーの会社名が記載されています(注:軽自動車は扱いが異なります)。
自己破産をする場合で、車のローンが残っており所有権留保があるときは、車はローン会社に引き揚げられますので、車を手元に残すことはできません。
もっとも、銀行のマイカーローンなどは所有権留保がありませんので、実際に車を引き揚げられるか否かは弁護士に相談してみるといいでしょう。
車のローンが残っていない場合~資産価値がなければ車を残せる
車を一括で購入していたり、カーローンを完済している場合は、ローン会社の所有権留保がないので(元々あった所有権留保もなくなりますので)、車を手元に残せるかどうかは、車の資産価値によって判断されることになります。
車の評価額はレッドブックや査定資料により判断します。もっとも、大阪地方裁判所の運用では、
①日本製の普通自動車であれば、初年度登録から7年を超え、新車時の車両本体価格が300万円未満の場合、
②軽自動車であれば、初年度登録から5年を超える場合は、
それぞれ無価値(資産価値はない)と判断されます。
よって、①②に当たる場合は、自己破産をしても自動車を手元に残すことができます。
①②に当たらない場合でも、車の査定資料などによって、車の評価額が低い場合は自由財産として手元に残すことができます。
自己破産とは、手持ちの財産を失う代わりに、借金をすべて帳消しにする手続きです。
ただし、自己破産をすることで、全ての財産を手放し、全く無一文になると生活ができなくなります。
そのため、自己破産をしても、破産者の生活再建のため、最大99万円の財産を所持したまま自己破産することが認められています。そして、車もその評価額が低い場合には、自由財産の一つとして手元に残すことができます。
尚、自己破産の手続きには、同時廃止と管財事件があります。
同時廃止の場合であれば車の評価額が20万円未満、管財事件の場合は預貯金等の他の財産と合わせて99万円以内である場合は、車を自由財産とすることができますので、手元に残すことができるでしょう。
自己破産後、所有している車はどうなるか?(大阪地裁の場合) |
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▋ローンが残っている場合 ローン会社が車を引き揚げるので、手元に残らない。 |
▋ローンが残っておらず、かつ、車の評価額が20万円未満の場合 同時廃止の手続きで自己破産が可能であり、車も手元に残せる。 |
▋ローンが残っておらず、かつ、車の査定額が20万円以上であるが、自由財産(最大99万円)の範囲内の場合 同時廃止ではなく管財事件となるが、車は自由財産として処分されず、手元に残すことができる。 |
▋ローンが残っておらず、かつ、車の査定額が自由財産(最大99万円)の範囲を超える場合 破産管財人によって車が処分されるので、手元に残らない。 |
※自己破産の手続きの種類についてはこちら→「自己破産の手続きの流れについて教えて下さい。|自己破産の種類(同時廃止と管財事件)についても解説」
自己破産前に車を残すためにしてはいけないこと
自己破産をするけど、どうしても車を残したいので、対策を講じることがあるかもしれません。
しかし、車を残すために深く考えずに取った行動が問題となって、免責不許可事由になることもあります。
そうなると自己破産をしても借金が免除されないことになり、自己破産をする意味がなくなってしまいます。
※免責不許可事由についてはこちら→「自己破産ができないケース(免責不許可事由)はどういう場合でしょうか?」
自己破産前に車を残すためにしてはいけない行為は次のとおりです。
・車の名義を変更する
・車を処分して受け取った代金を隠す
・自動車ローンだけを一括返済する
・自動車ローンだけを隠す
以下では、これらの行為について詳しく解説します。
車の名義を変更する
車の名義が家族や知人である場合は、自己破産によって車を処分されることは原則としてありません。
しかし、車の処分を免れるために、自己破産の直前に車の名義を家族や知人に変更することは大いに問題があります。
自己破産の直前に車の名義を変更して隠してしまうことは、「財産隠し」をしたとして、免責不許可事由に該当する可能性があります(破産法第252条1項1号)。
また、車の名義変更を破産管財人によって否認される可能性があります。
そうなれば、結局、車の名義は元に戻されて、破産管財人によって処分されることになります。
さらに財産を隠すことは、詐欺破産罪という犯罪に問われる可能性もあります(破産法第265条1項1号)。
詐欺破産罪になると、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、場合によっては、これらの両方が科されることがあります。
車の名義は公的機関に登録されており、ごまかすことができません。
そのため、自己破産の直前に車の名義を変更して車を隠すことは絶対にしないようにしましょう。
※免責不許可事由の条文(破産法252条)はこちら→破産法 | e-Gov法令検索
車を処分して受け取った代金を隠す
自己破産前に、車を相場よりも不当に安く売却するような行為も「破産財団の価値を不当に減少させる行為」として免責不許可事由に当たります(破産法第252条1項1号)。
また、車を相場の価格で売却したとしても、その代金を隠してしまったら、「財産隠し」として、当然に免責不許可事由に当たります。
車を相場の価格で売却した代金は破産管財人に引き継ぐ必要があります。
車の売却代金を破産申立の弁護士費用に充てることは認められますが、適正な価格で売却したことを破産管財人に説明する必要がありますので、弁護士によく相談してから車を売却すべきでしょう。
自動車ローンだけを一括返済する
前述したとおり、自己破産をする場合で、車のローンが残っており所有権留保があるときは、車はローン会社に引き揚げられますので、手元に残すことはできません。
しかし、車の引揚げを避けるために、複数の債権者がいるにもかかわらず、自己破産の直前に車のローンだけ一括返済することは、 特定の借金だけを返済する「偏頗弁済(へんぱべんさい)」にあたり、免責が許可されない可能性があります。
自己破産する場合、すべての債権者を平等に取り扱うことが必要となります。
しかし、カーローンの会社だけに先に残額を返済してしまうと、他の債権者との平等を欠く結果となります。
そのため、このような偏頗弁済は免責不許可事由とされていますので(破産法第252条1項3号)、カーローンだけ一括返済することは避けるべきです。
自動車ローンだけを隠す
車を残したいからと言って、自動車ローンだけを申告しないことも問題があります。
自動車ローンだけを隠して返済を続けることは「偏頗弁済」にも当たりますし、「虚偽の債権者名簿の提出」や「虚偽の説明」をしたという意味でも、免責不許可事由に当たる可能性があります(破産法第252条1項3号・7号・8号)。
自動車ローンが残っていることを隠しても、ローンの引落口座の履歴や破産管財人に転送された郵便物の内容からバレてしまいます。
また、官報に破産手続きの開始決定がされた事実が公告されるため、ローン会社の側から名乗り出られる可能性もあります。
そのため、自己破産をする際に、自動車ローンだけを隠して返済を続けることは絶対にしなようにしましょう。
車のローンを第三者に支払ってもらった場合(第三者弁済)は?
自動車ローンが残っていると、自己破産でローン会社に車が引き揚げられてしまいます。
そこで、親や子供などの親族に「第三者弁済」をしてもらい、ローンを完済できれば車を手元に残せる可能性があります。
ただし、第三者弁済によりローン会社の所有権留保が解除されると、自己破産する本人が車の所有者となってしまうため、車の査定額が高い場合には、破産管財人によって処分される可能性があります。
そのため、第三者弁済する場合は、前もって車の価格を調べておくとよいでしょう。
また、第三者弁済をした親族を債権者として申告する必要がある場合もありますので、誰かに第三者弁済してもらう場合には、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
配偶者や子供、親名義の自動車はどうなる?
自己破産では、破産者本人の名義の車が処分の対象になります。
そのため、配偶者や子供、親など、自己破産する本人以外の名義の車を処分されることはありません。仮に、同居の妻名義の車を夫が利用していたとしても、夫の自己破産により、妻名義の車が処分されることはありません。
自己破産で財産を処分されるのはあくまでも破産者本人であり、それ以外の家族や第三者の財産は対象にならないからです。
しかし、前述のとおり、家族名義の車であれば処分されないからといって、自己破産の直前に車の名義を家族に変更する行為は、財産隠しに該当するので、絶対に行わないでください。
また、家族名義の車であっても購入費用を破産者が出していた場合には、破産管財人が家族に購入費用の返却を求める可能性があります。
そのため、借金が増えた原因の中に家族の車の購入費用を出した事実があるような場合は、弁護士に事前に相談しておくといいでしょう。
自己破産後でもローンで車を購入できる?
自己破産をすると、しばらくの間、ローンを組んで車を購入したり、新たなクレジットカードを作ることができなくなります。
しかし、自己破産をした後、永久にローンを組めないわけではありません。
それでは、いつ頃から自己破産後にローンを組んで車を購入することができるのでしょうか。
自己破産後にローンを組んで車を購入できない理由
自己破産した後、新たなローンを組めなくなるのは、信用情報機関が管理している信用情報に、自己破産をしたことが事故情報として登録されてしまうためです。
信用情報とは、消費者金融、クレジットカード会社、金融機関が各業界で作成している信用に関するデータベースのことをいいます。
そして、この信用情報を管理している機関のことを信用情報機関といいます。
それぞれの信用情報機関と提携している消費者金融やクレジット会社などは、信用情報を閲覧できるようになっていて、新規契約が申し込まれた際には、必ずこのデータベースを確認しています。
そのため、自己破産をした方が車のローンやクレジットカードの新規作成を申し込むと、審査の際に信用情報機関に登録されている事故情報が発覚し、審査が通らないということが起こります。
つまり、事故情報が登録されている期間は、ローンを組んで車を購入することができないことになります。
事故情報が消えるのはいつ?いつから自動車ローンを契約できる?
自己破産などの事故情報は、「CIC(指定信用情報機関)」「JICC(日本信用情報機構)」「KSC(全国銀行個人信用情報センター)」という3つの信用情報機関に記録されます。
銀行や信販会社は、新規契約の申込みがあると、まずこの信用情報機関に登録されている情報をチェックします。このとき自己破産などの事故情報が残っていると、ローンの審査に通らないことになります。
信用情報への事故情報の登録期間は、3つの信用情報機関によって異なります。
CIC及びJICCは免責決定日から5年程度、KSC(全銀協)では破産手続開始決定日から10年程度と言われています。
そのため、自己破産後に車のローンを利用したい場合は、最低でも5年経過してからでないと審査に通りにくいといえるでしょう。
5年以上が経過し事故情報が削除されれば、再びローンの審査に出すことができます。その後はローンを組んで自動車を購入することができます。
自己破産の直後に車を購入する方法
自己破産後でも、現金一括払いであれば問題なく車を購入できます。
自己破産をするとしばらくの間はローンを組めなくなりますが、運転免許が取り上げられたり、自動車や物品の購入自体が制限されたりすることはありません。
また、破産者本人は車のローンは組めなくても、家族がローンを組んで車を購入することが制限されることはありません。
そのため、自己破産した場合であっても、家族がローンを組んで車を購入したときは、家族間で共用する車として利用することは可能です。
自己破産以外の債務整理により車を残す方法
どうしても車を手放したくないという方は、自己破産以外の債務整理の方法も検討するといいでしょう。
債務整理には、「自己破産」の他、「任意整理」「個人再生」という方法があり、最も車を残しやすい方法が「任意整理」です。
任意整理による解決
任意整理とは、サラ金やクレジット会社と任意に交渉して、債務の返済総額や返済条件・期間を見直して和解をする制度を言います。
任意整理では、利息制限法の利息で引き直し計算をして、減額された元本の分割返済を約し、かつ、その元本の分割返済に当たっては将来の利息が付かないように和解することになります。
(※:金融機関によっては利息や遅延損害金をカットできないこともあります)
例えば、利息の引き直し計算の結果、借入元本が50万円残る場合、その50万円を毎月1万円ずつ50回にわたって返済することを合意し、その50回の分割返済中には利息が付かないように和解することになります。
任意整理の場合は、財産を処分されることはないので、自動車ローンが残っていなければ、任意整理しても車を処分されることはありません。
また、任意整理は自己破産と違い、任意整理の対象となる借金を「選べる」というメリットがあります。
そのため、自動車ローンの返済中の場合は、自動車ローンを任意整理の対象から外し、自力で完済できれば、車を手元に残すことができます。
よって、任意整理による場合は減額された借金の分割返済は続きますが、返済能力と返済する意思があり、自動車ローンを任意整理の対象から外したい場合は、任意整理を検討するとよいでしょう。
個人再生による解決
個人再生とは、住宅ローンを除く借金を5分の1〜10分の1に減額し(ただし、100万円未満には減額できず、かつ、破産となった場合の予想配当総額を下回ることはできない)、減額された借金を原則3年で分割返済する制度を言います。
個人再生の場合に車を残せるかどうかは車のローンの有無によって変わってきます。
車のローンが残っていない場合
個人再生の場合は、自動車ローンの支払いが終わっていれば、車が没収されたり、売却されたりすることはありません。個人再生は自己破産と違い、基本的に財産が処分されるようなことはありません。
ただし、ローンがない車を持っている場合は、その車の価値が高ければ、再生債権の返済総額が上がってしまう可能性があります。
これは個人再生の「清算価値保障原則」があるためです。
「清算価値」とは、その人が保有している財産のことであり、「清算価値保障原則」とは、個人再生した場合に少なくとも清算価値以上の金額を弁済しなければならないという原則です。
この原則により、価値の高い車が財産の総額を押し上げることにより、再生債権の返済総額が上がってしまうということがあり得ます。
車のローンが残っている場合
個人再生も自己破産と同じく、車のローンが残っており所有権留保がある場合については、車はローン会社に引き揚げられますので、原則として車を手元に残すことはできません。
ただし、個人再生の場合は、債務者が車を継続使用できないと、その後の事業継続が困難となり、再生計画による返済ができなくなるような場合は、ローン会社と別除権協定を締結することにより車を残せる場合もあります。
例えば、個人タクシーや個人の運送業者などで、自分の車を直接仕事に使っている場合などが想定できます。
別除権協定が認められる場合はかなり例外的な場合となりますが、車を使う事業者の方で事業を続けながら個人再生を進めたい方は弁護士に相談してみるといいでしょう。
自己破産と車のまとめ
これまで述べたとおり、既にカーローンを完済している場合は、よほどの高級車でない限り、自己破産によっても自動車を手元に残すことができることが多いでしょう。
他方で、カーローンが残っており、ローン会社の所有権留保が認められる場合には、自己破産をするとローン会社に車を引き揚げられることになります。
そのため、カーローンが残っている場合は、任意整理や個人再生の方法により車を残すことも検討されるといいでしょう。
また、自己破産によって車を引き揚げられても、信用情報機関の事故情報が削除されれば、ローンを組んで自動車を購入することができます。
また、一時的に車を利用したい場合には、レンタカーやカーシェアリングを利用することもできます。
自己破産によって車を残すことができるかはケースバイケースとなりますが、詳しくは自己破産に強い弁護士に相談することをお勧めします。
(記事公開日 2024.11.22)